(木崎伸也:スポーツライター)
陸上・中長距離の世界において、管理しない自由な指導で結果を出しているコーチがいる。『TWOLAPSトラッククラブ』(以下、TWOLAPS)を率いる横田真人(33歳)だ。
選手として男子800メートルで2012年ロンドン五輪に出場し、現役中に米国公認会計士試験に合格。引退後にNIKE TOKYO TCのGM兼ヘッドコーチに就任し、2020年1月に自ら『TWOLAPS』を立ち上げた。
横田はまさに新時代のコーチだ。
実業団に所属している選手を『TWOLAPS』で引き受け、実業団から報酬をもらって指導を行う(学生に関しては無料で指導)。
新谷仁美(10000メートル)と卜部蘭(1500メートル)は積水化学に所属しながら、普段は横田のもとで練習しており、2人とも東京五輪に出場。新谷は去年の日本選手権で10000メートルの日本記録を28秒45も更新し、東京五輪でメダル候補として期待されている。
『TWOLAPS』では練習参加は個人の自由で、合宿に行っても朝練の強制はない。体育会系の指導とは一線を画している。
そんな“選手の力をのびのび楽しく引き出す”コーチは、日本的な根性をどう見ているのだろう?
「選択肢を与えない」は通用しない
──横田さんは「根性」と聞いて、どんなことを連想しますか?
気合いとか根性って、何か突き抜けるうえで、何か成し遂げるうえで、絶対に必要な要素だと僕自身は思っています。それがなくては無理。
ただ、その根性をどうつくるかのアプローチが、最初から答えみたいな話になるかもしれませんが、今と昔は違うのかなと。
昔は我慢をして、我慢の先に成果がある、という共通認識ができあがっていた。でも、なぜ我慢は必要なのか、どうやって我慢したらいいのか、ってことが、きちんと説明されてこなかった。
今、僕の仕事は、なぜ我慢するのか、我慢した先に何があるのか、我慢の仕方を説明することです。
我慢は絶対に必要だし、根性も絶対に必要なんですよ。それをポジティブに出すためにどうするかが、僕のコーチとしての仕事です。
──昔はコーチがやれと命じたら、黙ってやる文化があったのが、今は変わってきている?
そういう文化は、良くも悪くも、今も残っていると思います。寮生活や合宿生活をさせて、外部から情報を遮断し、『これをやれば強くなる』と言い聞かせ、他の選択肢を与えない。その方が集中できるし、疑いも生まれてこない。特に女子の長距離の実業団は、よく合宿に行きます。
でも今の時代、みんな携帯を持っているので、情報の遮断なんてできないんですよ。情報が簡単に手にできる時代になった。普通の感覚を持つ選手なら『なんで私はこういう練習をやっているんだろう』と感じると思うんです。
──選手が得られる情報が増え、頭ごなしの指導が成立しなくなってきているわけですね。
あとは高校まで強制的にやらされていた選手が、大学生や社会人になって解放された途端、自由に戸惑うというケースも依然としてあると思います。
自分で情報を選び、決断して行動するというプロセスをうまくできない。