守谷 はい。3年前、東京オリンピック組織委員会から依頼があり、そこから準備を始めました。災害医療の中で、「マスギャザリング(一定期間,限定された地域において,同一目的で集合した多人数の集団)」の医療はひとつの分野として確立しているのですが、その指揮命令系統などは日常の救急医療に準じる部分が多くあるんです。

自治医科大学医学部教授。自治医科大学附属さいたま医療センター救命救急センター長。日本大学客員教授。St.Vincent College Hospital 外傷災害部門客員教授。日本DMAT統括。日本大学を卒業後、1992年渡米。外傷診療の研鑽を積み帰国。チャットボット形式による埼玉県AI救急相談を開発。ドクターカーと世界で4台目のハイブリッドERとの診療を組み合わせた革新的な救急医療を展開。
テロで責任者が倒れた場合の対応も決めていた
讃井 どのような事態をシミュレーションされたのですか?
守谷 たとえばテロが起こって、多数の傷病者が発生するケースです。テロが発生した時にもっとも重要なのは警察・消防との連携ですので、事前にお互いの動きを確認しました。私達は、消防の指揮下に入ります。警察からはテロに関する情報の早期入手が大切になってきます。彼らとは、日ごろから救急医療でお付き合いがあるので、この点はスムーズでした。
さらに最悪の事態になったら、DMAT(災害医療派遣チーム)の派遣を要請しなければなりませんが、私自身が統括DMAT登録者(災害時に各DMATを統括して責任者として活動する資格保有者)なので、VMOから統括DMATにそのままシフトして対応することにしました。細部は言えませんが、テロで私が倒れた場合の対応まで決めていたんですよ。
讃井 サッカーは試合中の選手の怪我が多いと思いますが、それについてはどのように想定されていたのですか?
守谷 各国代表チームには、チームドクターが帯同します。事前に情報収集したところ、サッカーの競技特性として筋肉や靱帯などの損傷が多いので、チームドクターから「怪我をした選手のMRIをすぐに撮ってほしい」というリクエストが多いということがわかりました。そこで、搬送予定先の病院に、あらかじめMRIを撮れるようにお願いしておきました。
実際の試合には、FIFA(国際サッカー連盟。サッカー競技はIOCではなくFIFA管轄)からもドクターが来ましたので、チームドクター、FIFAのドクター、そしてわれわれの3者の意見が割れないように日本の救急システムを説明するなどコミュニケーションに努めつつ、選手のことを一番知っているチームドクターの意見をできるだけ尊重しようというスタンスで臨みました。
讃井 搬送事例はあったのですか?