(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)
現場を歩くことは取材の基本だ。そこで起きていることを眼で見て、音を聞き、空気を肌で感じる。文字や映像では決して伝わることのない匂いは、現場に立ってみないとわからない。
これまでにさまざまな事故、事件の現場を歩いてきた。刑事裁判の傍聴取材が多いのも、当事者と同じ空気を吸って、そこで語られる事件当時の状況を知る最適の場所だからだ。
オリンピックミュージアムに人だかり
東京オリンピックが開催中の国立競技場の周辺を歩いた。大会9日目で陸上競技がはじまっていた。
無観客開催だから、チケットがあっても中には入れないことはわかっていた。だが、その周辺なら歩けるはずだった。
アプローチの仕方はいろいろあるが、多くの人がそうするであろう東京メトロ銀座線の外苑前駅で降りて、そのままスタジアム通りを北に歩く。右手に見える秩父宮ラグビー場を通り過ぎ、その並びに神宮球場が現れると正面に、樹木をあしらって階層構造になっている新国立競技場の外壁がはっきりと見えた。
通りを挟んだ神宮球場の向かいに建つオリンピックミュージアムの周辺には、人だかりができている。比較的若い人たちが多く、土曜日の午後だったこともあって、小さな子どもを連れた家族の姿も目立つ。
東京都には緊急事態宣言が発出されていたが、みんながマスクをして目当てにしているのは、ミュージアムの敷地広場にある五輪マークを立体化した等身大ほどの“オリンピックシンボル”だった。そこで国立競技場を背景にしたりして記念写真を撮っている。その順番を待つように通りに沿って列もできていた。