NG要素満載の『ドラゴン桜』がなぜ支持されたのか

 それは、この4~6月クールのテレビドラマの趨勢を見ていても感じます。

 このクールで、大河ドラマ『青天を衝け』に次ぐ視聴率をマークし続け、話題になったのが大学受験をテーマにした『ドラゴン桜』でした。6月27日放送の最終回は20.4%という最近では稀にみる高視聴率(平均世帯視聴率)をマークしたそうです。

 このドラマ、私に言わせれば極めて異例のドラマです。それは「東大に合格するために色々と我慢して、これとあれを勉強しろ」という“管理教育体質”を前面に出して、生徒には「お前たちはエリート(ルールを決める側)を目指せ」と言って尻を叩いているのです。普通のテレビドラマやメディアの姿勢では、管理教育的なもの、エリート志向というのは、どちらかというと「NG」に該当します。記憶にある限り、かつての学園ドラマでこういうパターンはなかったように思います(もちろん、2005年に放送された『ドラゴン桜』の最初のシリーズは別ですが)。

 私見では、学園ドラマのヒットパターンは3つあると思っています。1つはいわゆる「寄り添い型」です。『3年B組金八先生』や『熱中時代』がこの類型になります。生徒に時に優しく時に厳しく接してくれる武田鉄矢さん演じる金八先生や、水谷豊さん演じる北野先生に憧れた人は少なくないと思います。2つ目がスポーツ根性もの。『スクール☆ウォーズ』や『ROOKIES(ルーキーズ)』です。これは教師が勝利を目指して管理型の指導をしますが、「お前たちはエリート側に行け」などとは言いません。先ほど、学園ドラマのNG要素に「管理型」と「エリート志向」があると言いましたが、スポ根ものは、大体、雑草系(反エリート系)が、管理という苦難の下で努力し、「エリート」に勝利するパターンが多いと言えます。

 毒舌・本音トークでバラエティ系や司会者としてTVで活躍している坂上忍さんは、本業は俳優であり、出世作は、主演した『中卒・東大一直線 もう高校はいらない!』というドラマです。高校の管理教育に反発して中退し、自分で勉強して大検にパスし、東大を目指して合格するというストーリーです。こちらは「エリート志向」ではありましたが「管理型」ではありません。いわばスポ根ものとは逆のパターンです。両方の要素を入れている『ドラゴン桜』は、珍しいパターンだと思われます。

 3つめのパターンは、『ごくせん』や『GTO』といった強烈な個性の先生が出てくるタイプです。『ドラゴン桜』も、阿部寛さん演じる桜木弁護士の異色さから、その系譜と言えなくもありませんが、とはいえこのパターンともちょっと違います。『ごくせん』や『GTO』に登場する教師が、管理教育の信奉者だったり、「お前たちはエリートの側に行け」などと諭したりすることはありません。そう考えればやはり『ドラゴン桜』は、このパターンともちょっと異なり、今までにないパターンと言えます。

 しかもこのドラマでは、型破りな弁護士・桜木が学園にやってきて、生徒に「バカとブスこそ東大に行け」などと、普通なら炎上しそうなセリフをバンバン言うのです。その言葉の意図するところをよくよく紐解いてみれば、建前なしの「本音」であり、さらに生徒に対しては、一見冷たそうに見えつつ、ギャップ萌えと言いますか、実は徹底的に寄り添うという姿勢を決して崩さないのです。そこが見る人に強烈に伝わってくることが人気の要因になっていると思うのです。