この3つ目の要素は、まさに最後にユーザーである人間に寄り添う部分であり、先ほどの文脈で言えば「アナログ的」な部分になります。ただ機材を手際よく配って、テクニカルサポートをすればオンライン教育は上手く行くかというと、そうではない。それが教育の現場で奮闘する今村さんの実感でした。
菅政権も実は、1つ目と2つ目の部分は非常に効率的にやっています。だから「ほら、やることやっているでしょう」という自負もあるのだと思いますが、その先の、国民に本音を見せながら寄り添っていく部分が足りていないのではないか。そんなふうに思えてならないのです。
トランプはなぜ熱狂的支持者を獲得したか
アナログ的な「寄り添う」ということに関して参考になるのが、「ファンベース」と呼ばれる手法です。『ファンベース――支持され、愛され、長く売れ続けるために』(ちくま新書)などの著書を持つコミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之さんと先日お会いする機会に恵まれましたが、氏によれば、多くの商品の消費動向を分析すると、実は、毎日購入するようなコア層(約2割)が、その商品の全消費量の8割を購入していることが多いという現実を良く見るべきだとのことです。これを「パレートの法則」というそうです。
つまり広報戦略としては、不特定多数の人に向けて大量にメッセージを届けるというのは、ともすれば砂漠に水を撒くような結果しか生まない恐れがある中、本当のファン層の約2割の人に向けて、従来よりももっと「本音」を見せ、もっと「寄り添う」形のメッセージを発信していったほうが、口コミの効果などにより、結果はよくなる可能性があるというのです。これがファンベースと呼ばれる手法です。
佐藤さんの分析によれば、それが最高に上手かった一人がトランプ前大統領とのことでした。トランプ氏の主張の中身の是非はともかく、たとえ敵を作ろうとも岩盤的コア支持者を大切にして大統領にまでなってしまったという現象、あれこそがファンベースのアプローチの典型と言えるようです。ファンである支持者に対しては非常に寄り添って、本音を見せて、熱狂的な支持を獲得する。もちろん、その反射的効果として、支持者以外の人には徹底的に嫌われることにもなる。それでも政権を取り、恐らくコロナが無ければ再選されていた可能性が高いほどに、政権をある意味で安定的に運営することが可能でした。また佐藤さんによれば、安倍晋三前首相と支持者の関係もこれに近い構図だったとのことです。
現在はコミュニケーションツールとして、デバイスとしてのデジタル機器や、インターフェイスとしてのYouTubeやTwitterといったSNSの重要性が増していますが、その際のアプローチのあり方、コンテンツや中身の見せ方としては「本音」とか「寄り添い」を重視したアナログ的手法がこれから極めて重要になってくると思っています。