糖尿病の治療薬が肺がんを抑制、マウスの実験で証明 米研究

肺ガン患者のX線写真を見る医師〔AFPBB News〕

残り2755文字

 具体的に考えてみましょう。ガンというのは、もともとは私たちの細胞の一部であったものの遺伝子に変化が生じて、私たちにコントロール不能な細胞(ガン細胞)が体内で増殖してしまい、最終的には命を奪うこともあるという病気です。

 先に、放射線は私たちの細胞やその中の遺伝子をアタックすると書きましたが、これは私たちの細胞だけではなく、ガン細胞やその遺伝子に対しても同様です。

 そこでX線や電子線、場合によっては陽子線や重粒子線などを患部に照射して、ガン細胞を破壊するとともに、ガン細胞の遺伝子も破壊して根治してしまおう、という治療の戦略が立つわけです。

 一般的な固定ガンの場合は総線量70グレイほどの照射でガンを退治することができるようですが、より退治しやすい白血病の場合は20グレイほどでも効果が上がることがあるそうです。

 これらはあくまでグレイで、シーベルト単位でないことに注意しましょう。シーベルトはあくまで健康を損ねる度合いであって、ガンを治すための単位は吸収線量、つまり医療用放射線の「仕事量」で測られるからです。

 現実のガン放射線治療では、1日1回、週4~5回の分割照射が行われ、1回の線量は2グレイ程度、これを、正体の分かった放射線で、患部に焦点を絞って当てていくことで、ガン細胞を根本的に退治してしまいます。

 普通の私たちの細胞も傷つきますが、これは免疫系が働いて修繕します。しかしガンの方には修復する免疫系がありませんから、私たちの自然治癒力が勝っている限り、放射線は(抗ガン剤などと併用しながら)高い治癒実績を持っているわけです。

 放射能には致死的な照射量があります。しかしそのことによって、ガンの根治という医学的に非常に強い力を発揮することもできる。むやみに威力を恐れるばかりでなく、こうした面にも目を向けて正しくつきあっていくことが、非常に大事だと思います。

チェルノブイリの首飾り

 1986年のチェルノブイリ原発事故では、揮発性の物質であったため、放射性ヨウ素131が大気中に拡散し、多くの人がこれを身体の中に取り込んで「内部被曝」してしまいました。

 いったん身体の中に取り込まれると、ヨウ素は甲状腺に集まるという傾向があり、放射性ヨウ素131も喉の甲状腺に高い濃度で集積されてしまいます。

 ヨウ素131の半減期は約8日と短いですが、食べ物などを通じて新しい放射線源が供給され続ければ、甲状腺は常に電子線のアタックを受け続け、ガンの発症率が高くなってしまいます。

 このことがあまりよく知られていなかったチェルノブイリ原発事故当時は、特に「小児ガン」が多発して、多くの子供が犠牲になりました。