(文:村山祐介)
アメリカ南部のメキシコとの国境に、子どもだけの移民が殺到する異常事態が続いている。3月は前月から倍増し、史上最多の約1万9000人に達した。「移民危機」は、対応が後手に回ったジョー・バイデン米政権の急所になりつつある。
定員の16倍の子どもが密集
夜陰に紛れ、高さ4.3メートルの国境フェンス上にまたがった男が、抱えた少女を米国側にゆっくりと降ろしていく。地面まで高さ約2メートル。ボトリと落ちた少女は衝撃で前のめりに突っ伏し、約15秒間もうずくまっていた。2人目の少女を米国側に落とすと、男は奥にいたもう1人とともにメキシコ側に走り去った――。
ニューメキシコ州で3月30日夜、米国境警備隊の暗視カメラがとらえた密入国の瞬間だ。すぐに警備隊が駆けつけて少女たちは無事保護されたが、現場は最寄りの住宅まで数キロも離れた砂漠地帯だった。少女たちは南米エクアドル出身の5歳と3歳で、逃げ去った2人組は密航手引き人とみられている。
テキサス州でも4月1日、警備隊の車両に10歳の中米ニカラグアの少年が泣きながら助けを求めた。ワシントンポスト紙などによると、少年は3月、母と一緒に国境を越えたものの、警備隊にメキシコ側に追い返され、その直後に母とともに誘拐された。米国に住む親族が身代金の要求額の半分を支払ったことで少年だけ解放されて米国側で放置され、砂漠地帯を1人で4時間さまよったという。
テキサス州と国境を隔てるメキシコ北部は、麻薬カルテルが激しい縄張り争いを繰り広げ、米国務省がシリアやアフガニスタン並みとも位置付ける危険地帯だ。カルテルが「コヨーテ」と呼ばれる密航手引き人を囲い込み、身代金目的で移民を誘拐する事件も相次いでいる(「アメリカ目指す中米・アフリカ移民の命懸け「現代版・出エジプト記」」、新潮社フォーサイト)。
米税関・国境警備局(CBP)の統計によると、3月に見つかった密入国者は約17万2000人。今年1月までは4カ月連続7万人台だったが、バイデン政権発足直後の2月に10万人台に乗り、そこからさらに跳ね上がった。
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