「まぁ、立派な猫ちゃん! 大きいね〜」と声をかけると、猫のものとは思えない野生的な声でうなりました。それを聞き、家の中から奥さんが心配して出てきました。

「おかしい。この猫が、家人以外に気を許すなんて。いままでになかったこと。どうしたのかしら? 不思議だわ。第一、これはイエネコかどうかもわからないのよ」。
「え!? どういうことですか?」。

 このイエネコなのか不明(ということはヤマネコ?)のネコ科動物は、娘さんが大学の卒業旅行でインド・ムンバイを訪ねたときに、路上で瀕死の状態の子猫を見つけて保護したのだそうです。ムンバイの旧都市名であるボンベイと名付けられ、この家で飼われています。

「娘が旅行から帰ってきたときに、子猫を連れていたんだけど、鳴きもしないし、インド土産のキーホルダーだと思ったくらい小さくて痩せこけていたの。それがここまで大きくなっちゃって・・・」

 帰国時、動物検疫はどうしたのか、という疑問もあったのですが、それよりも、イエネコではないかもしれないということの方が気になってしまいました。かかりつけの獣医さんも途中から一般的なイエネコではないのではと、思いはじめたということです。確かに、わたしも出会ったことがないってくらい、がっちりと骨太な猫でした。顔も毛並みも野性味あふれ、エキゾチックです。

「ピューマとか、そういう野生動物が関係しているかもしれないって、実は思っているの。わたしもいままでにいろいろな猫と暮らしてきたけれども、この子は特別だわね」

 ボンベイは、頭をなでられると落ち着いて、イエネコのような表情を見せていました。

 アムステルダム最古の住居といわれる集合住宅の中庭をゆうゆうと散歩する猫がいました。700年ほど前に建てられた住宅に現在も暮らす人や猫がいることは、素晴らしいと思います。

 会ったとたんに「まぁ、なんてきれいなお嬢さんでしょう」と、声をかけていました。首をかしげているのは、飼い主さんによると、「とても耳がいいので、聞きなれない言葉を聞いて、興味を持ったのよ。どういう意味か、解析しているのね」ということでした。