いまこの銘柄が面白い

 菅内閣総理大臣は2020年10月26日の所信表明演説において、「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」、すなわちカーボン・ニュートラルを目指すことを宣言しました。株式アナリストの鈴木一之さんは、「再生可能エネルギーの利用拡大に伴い、電気を貯めておく蓄電池のニーズが高まる」と語ります。蓄電池が必要になる理由や実用されている蓄電池の概要、注目銘柄について解説していただきました。

2021年は「地球環境の年」となりそう

 鈴木一之です。新しい年が幕を開けました。今年はどのような1年になるのでしょうか。

 2020年は人類にとって「パンデミック」という災いの年でした。幸いなことにワクチンは昨年のうちに開発されました。2021年はぜひとも「パンデミックを克服した年」としたいものです。

 どうやら2021年は「地球環境の年」となりそうです。恐るべき異常気象をもたらしている温暖化現象に対して、126の国と地域が2050年に向かって「温暖化ガスの実質ゼロ」を打ち出しています(国連調べ)。

 米国では混乱のうちにジョー・バイデン新大統領が誕生します。バイデン大統領は地球環境への取り組みを新政権の政策の柱に据えており、就任後の早い時点でパリ協定に復帰することを公約に掲げます。

 米国が環境規制を重視する陣営に戻ってくれば、CO2の排出量に換算して世界の6割を超える温暖化ガスが「ゼロ」に向かうことになります。グレタ・トゥンベリさんが悲痛な声で訴えた気候変動への取り組みが、遅まきながら世界中で実現への一歩を踏み出す年が始まります。まさに「グリーン革命」です。

エネルギー構成を変えると蓄電ニーズが増す

 地球環境を守るにはコストがかかります。現状よりもコストがかかるエネルギーを使用することが避けられないために、将来的に電力料金は今よりも値上がりすることが確実と見られます。カギとなる技術のひとつが「蓄電池」です。

 世界的なコンサルティング・ファームのひとつ、デロイト・トーマツ(DT)が試算したところでは、2050年のカーボン・ニュートラルを目指すとなると、私たちの電気料金は今よりも3割近く上昇することになるそうです。(2020年12月20日付、日本経済新聞)

 電力料金を3割以下の値上がりにとどめるには、エネルギー全体に占める再生可能エネルギー(太陽光、風力発電)の割合を6割まで高める必要があるとDTは試算しています。(2019年の構成比は18%)

 同時にガス火力を2割に(37%)、原子力と石炭火力の合計を2割(38%)にしなければなりません。

 このようなエネルギー構成を実現するために、系統電力網の負荷を平準化するために電気を貯めておく蓄電池を増強する必要が生じ、それには4兆円の投資が欠かせません。CO2の回収・貯留(CCS)にも5兆円が必要で、合計で9兆円の投資が不可欠とDTでは弾いています。

再生可能エネルギーは不安定な電源

 エネルギー構成比を変えると、電力を貯蔵するニーズはどうして生じてくるのでしょうか。それは再生可能エネルギーの出力が安定していないためです。

 人類の歴史の中で様々なエネルギーが用いられてきましたが、中でも電気エネルギーは最も扱いやすいエネルギーとして社会に広く受け入れられています。その電気エネルギーの最大の欠点が「蓄えにくい」という点にあります。

 18世紀に人類が初めて電気を使用して以来、電気を貯えておく技術は常に最重要の技術的な課題であり続けてきました。あらゆる技術の進化が見られた今日においても、この電気の「蓄えにくい」という欠点はまったく変わらず残っています。

 再生可能エネルギー、中でも有望とされている太陽光発電と風力発電は天候に左右されるために、電力の出力としては非常に不安定な電源です。その出力の変動を吸収するために貯蔵する必要があります。時間的には秒単位から10分間程度の出力の平滑化能力が求められます。

 さらに再生可能エネルギーの余剰分を吸収する必要があります。太陽光発電の場合、5月の日中の日差しは発電量が大きく、それに対して需要が低い時間帯があります。あるいは風力発電であれば、冬季の夜間は電力の需要は低いものの、風力は強くて発電量が多いという場合があります。この時に供給力が過剰となり、需給バランスを調整する必要が生じます。

 電力料金は今でも時間帯によって異なっています。電力取引の実績を見ると、深夜の電力は昼間の2割から5割程度で取引されています。夜間の安価な電力を貯えておき、昼間の時間帯に放出することで経済的な利益を生み出すことができます。

 蓄電池を電力の需要サイドに設置しておけば、送電線の過負荷を緩和できます。夜間にケーブルや配電線の利用率を高めることで、昼間に負荷をかけ過ぎることを解消することも可能です。