(2)ニッケル水素電池

 ニッケル水素電池は、負極物質に金属水素化合物(MH)、正極物質にニッケル酸化物(オキシ酸ニッケル、NiOOH)を採用して、電解質には水酸化カリウムを用いる、アルカリ水溶液を用いた2次電池です。

 ニッケルカドミウム電池の負極材を、カドミウムから水素吸蔵合金に変えた構造となっており、原理的にはより大容量化、長寿命化が可能です。

 水素原子がMHとNiOOHの間を移動することで充放電がなされます。重金属の溶液を利用する鉛蓄電池や、ニッケルカドミウム電池などの従来型の2次電池と比べて、電池反応が単純な構造となっています。電池反応に水が関与しないため、電解質の濃度は常に一定に保たれ、この点でも鉛蓄電池とは大きく異なっています。

 1990年に実用化されて以来、ニッケル水素電池はデジタルカメラや電動工具などの民生用小型電池として使用されてきました。1990年代後半からは技術改良によって用途が急速に広がり、小型のポータブル機器、電動アシスト自転車、ハイブリッド車などに搭載されるようになりました。リチウムイオン電池と競合しながら普及が進んでいます。

 最近では負極材、正極材、電解液の素材の改良や構造面での工夫が進み、大容量で高速での充放電が可能な大型ニッケル水素電池が開発されました。郊外型電車のような移動体用の電源や、太陽光・風力発電と併設された系統電力とのやりとりもできるようになっています。

 理論上の起電力は1.32Vですが、実際には1.2Vで作動します。作動温度の範囲は充電時は0~45℃、放電時は▲20~60℃、ニッケルカドミウム電池とほぼ同じ範囲です。

 過充電の際にガスが発生しにくい構造のため、密閉化が容易です。実際に運用する際には電池監視モニターによって電池電圧、温度、圧力を監視して制御しています。

 このほかにもニッケル水素電池の特徴としては、「作動電圧が平坦」、「充放電サイクルの寿命が長い」、「急速充電、大電流の放電が可能」、「取り扱いが容易」、「長期放電に耐える」、「使用温度の範囲が広い」、「安全性に優れる」、「環境適合性に優れる」、などがあり、信頼性の高い蓄電池と言えるでしょう。リチウムイオン電池と比べて大電流の放電が可能です。

 欠点としては「自己放電」や「メモリー効果」がありますが、それもニッケルカドミウム電池よりは軽微とされています。

 自己放電とは「内部放電」のことで、どんな2次電池にもついてまわる現象です。充電と放電を繰り返していると2次電池は次第に劣化してゆきます。自己放電の大きな電池は、フル充電の状態から放電した場合、充電量の低下の度合いが大きくなります。周囲の温度が高くなると内部放電は大きくなります。

 リチウムイオン電池はニッケル水素電池よりも自己放電が小さいとされていますが、それでもゼロにはなりません。

 2次電池の場合、放電する際に容量をある程度残した状態で放電を中止して再び充電を行うと、最初に放電を中止した付近で電圧が低くなってしまいます。放電のたびに同じ付近で中止していると、この傾向はさらに顕著となります。電池は放電が中止された部分の水準を記憶しているように見えることから、これを「メモリー効果」と呼んでいます。

 ニッケル水素電池のメモリー効果は一時的なものとされており、あらためて十分に放電することでその記憶は解消されます。

 ニッケル水素電池は、電池の加温や危険物の取り扱いが不要で、補助的な動力もいりません。そのために瞬時に起動することができます。

 電池を構成する物質は環境にやさしく、電池の構造がシンプルです。鉛、水銀、カドミウムなどの有害金属は使われません。使用後の電極材の分別回収やリサイクル、メンテナンスが容易で、設置や取り扱い上の制約が少ないのが特徴です。

 ニッケル水素電池の負極材には、大量の水素を吸蔵・放出することのできる水素吸蔵合金が用いられます。ここではニッケル、アルミニウム、コバルト、ジルコニウムなどの希土類が採用されることが多く、有害な物質ではないこと、資源的に豊富で安価であること、繰り返し使用する際の性能劣化が少ないこと、アルカリ電解液中で安定し耐酸性に優れていること、などが求められます。

 1990年に水素吸蔵合金を負極に用いたニッケル水素電池が商品化されて以来、電池の高容量化の技術が進み、円筒型密閉電池のパワー改善が続けられました。今では風力・太陽光発電の出力平準化システム、移動体用動力としてLRT(Light Rail Transit)や電動フォークリフト用の動力、鉄道の地上蓄電システムなどへの応用が始まっています。

 今後一層の高性能化、長寿命化、低コスト化が図られることになり、普及に弾みがつくと予想されています。