(3)NAS(ナトリウム硫黄)電池

 NAS電池は、負極物質にナトリウム、正極物質に硫黄、電解質にベータアルミナというファインセラミックス(固体電解質)を用いた電池です。

 NAS電池は高温作動型の電池で、運転温度は300℃です。これは正極材、負極材など電池を構成するすべての電極物質を溶液状態に保つために必要で、そのために真空断熱容器に収容して温度を保つような構造になっています。

 東京電力が日本ガイシと共同で1980年代に開発に着手して、1992年に実証実験を開始して実用化にこぎつけました。

 電解質のベータアルミナは、ナトリウムイオンを通す性質を持ったセラミックスです。溶融した電極を分離するセパレーターの役目も持っていて、高温に耐える必要からセラミックスが用いられます。

 単電池は円筒形をしており、中心から外側に向かって「ナトリウム、ベータアルミナ管、硫黄」の順に配置されます。単電池は1本ごとに金属容器で密閉され、内部の電極物質が電池の外側に漏洩しない構造となっています。

 単電池のみの起電力は2V弱と低く、容量が小さいために多数の単電池を直並列に接続して集合化したモジュール電池として使用されます。モジュール化することで、鉛蓄電池の3倍の高容量が得られ、それによって大規模な電力貯蔵用の蓄電池として使用できます。

 最初から夜間電力の貯蔵、出力変動の大きな風力・太陽光発電の出力安定化システム用の使用を目的に開発されました。高温下でのみ作動するために、運転停止までに時間がかかります。そのため頻繁な起動・停止が必要な用途には向きません。

 運転開始時には電気ヒーターで運転温度まで温める必要があります。いったん起動したら保温に必要な最小限のヒーター電力を用いて、常時運転するような管理を行うことが重要です。

 NAS電池の特徴はさらに次のようなものがあります。

  • 自然界に豊富に存在する資源を材料としている
  • 量産化によりコストダウンが可能
  • 自己放電がない
  • 充放電の回数は約4500回、鉛蓄電池より多くて長寿命
  • 部材の耐久性も15年程度と長い
  • 充放電の効率は70~80%と高く、CO2を発生しない
  • 振動・騒音が少ない
  • 補助的な機構や稼動のための部品が少なく、メンテナンスが容易
  • ナトリウム、硫黄という燃えやすい材料を使うため取扱いには注意を要する

 コンパクトで効率のよいNAS電池は、電力の負荷平準化システムに最も適しているとされており、大規模な変電所、需要家サイドの電力貯蔵システム、非常用電源システム、瞬低対策システムとして広く稼働しています。

 海外でもアメリカ、フランス、ドイツ、中東諸国の再生可能エネルギーの発電設備では、NAS電池が出力の安定化と発電の変動抑制として数多く使用されています。

 耐久性、信頼性、安全性の面で優れるNAS電池は利便性が高く、クリーンな系統電力を有効に活用するためにも今後ますます導入が進むと予想されています。