直接のきっかけはLNGの在庫不足だ。アジアのLNG市場の逼迫が背景だが、なぜこれほどの売り入札急減につながったのか、調達に際して見込み違いがあったのかなどは、さらに調査が必要だ。
そして、それらの裏側にある根源的問題が、電力市場の構造だ。電力自由化はなされたが、今も発電市場は大手電力が8割を占め、発電と小売は同一会社で運営されている(東京電力と中部電力では別会社だが同一ホールディングス内)。このため、異常な高価格になっても、大手電力内では損得が相殺されるが、小売部門のみの新電力には多大な損失が生じる構造だ。
今回の価格高騰が売り惜しみや相場操縦で人為的に作られたのかは、調査中であり何ともいえない。だが、少なくとも客観的にみて、市場支配力と情報を握る事業者が売り入札を減らし、結果として有利な取引が成立していたことは間違いない。
問題は、そうした市場構造にもかかわらず、市場機能を守るための制度設計が全く足りていなかったことだ。情報開示は不十分で、大手電力内の取引やLNG在庫などの情報もブラックボックス状態。価格乱高下に対応する仕組みも整備されていなかった。「市場設計の欠陥」が異常事態の根源だったことは明らかだ。
新電力は救済すべきか?
新電力の相当数は危機的状況に陥り、政府に救済を要望している。これに対し大手電力幹部は、「自身の経営判断は棚に上げといて、大手電力がぼろもうけしたというのは筋違い。燃料調達と確保に走り回ったのは、誰だと思っているんだ」と怒り心頭という(出典:ダイヤモンドオンライン『経産省の新電力救済策でバレた!電力小売全面自由化の「崩壊」』)。
たしかに、欠陥ある市場にリスクヘッジもせず参加していた新電力には責任がある。大手電力の方々が必死で停電を回避したことには感謝したい。
しかし、大手電力が今回「ぼろもうけ」すべき理由もない。異常事態の直接のきっかけはLNG調達の不足、つまり大手電力側の事情だ。それにもかかわらず、「市場設計の欠陥」をてこに、異常な価格で生じた利得を大手電力が手にし、一部の新電力などが一方的に負担を負わされているのは、どうみても不公正だ。