前回コラム(「株買える日銀法は万能?」)でも若干触れたが、景気対策の財源として政府紙幣を発行する案が浮上している。劇薬的手法とはいえ、経済危機が一層深刻になれば、何らかの劇薬が必要かもしれない。しかし、危機的局面で避けるべきは、パニックを起こして劇薬に飛びつくこと。拙速な対応は得てして失敗しやすい。政府紙幣は日銀の国債引き受けと同義だが、副作用のなるべく少ない形でこの劇薬を処方する方策があるのか、考察してみたい。
政府が独自に紙幣を発行し、景気対策の財源を確保する。政府紙幣は国債と違って金利は付かず、償還の必要もない。一見、「打ち出の小槌」のような資金調達に映る。
当然、うまい話には裏がある。実際の流通を考えると、ハードルが多い。第一、かつての「軍票」のイメージと重なり、国民が積極的に持ちたがるとは思えない。自動販売機や銀行ATM、駅の券売機が政府紙幣に対応するとは考えにくく、使い勝手はかなり悪いだろう。流通しない政府紙幣はどうなるのか。国が独自に流通・回収を行っても、使われない紙幣は政府に戻ってしまい、資金調達の目論見は失敗する。
しかし実際には、日銀が政府紙幣の流通・回収業務を担い、財源だけはしっかり確保したい政府が日銀に全額売却する方法が取られるだろう。流通・回収業務の責任を日銀に負わせると、政府紙幣のほぼ全額を日銀は資産として抱え込む。つまり政府紙幣は、日銀による国債(利子のない永久債)引き受けと同じメカニズムになる。
技術的には、最大30兆円可能だが・・・
政府紙幣発行が実は、日銀の国債引き受けだと分かった。では、これをなるべく副作用の少ない形で実行する方法はあるのか。結論から言うと、金融調節の効率化の観点からは、30兆円規模まで引き受け可能だと考えられる。以下、具体的に解説したい。
まず、日銀のバランスシート(B/S)状況を見よう。1月末時点でB/S規模は120兆円。負債側で最も比率の高い銀行券は、残高77兆円に達する。これに見合う資産は国債だが、その残高は43兆円にとどまり、その差は34兆円余。この足りない部分の資産は、「短期国債」や「共通担保資金供給」など短期のオペレーションで構成されている格好だ。
次に、日銀のオペレーション頻度を確認する。銀行券見合いの国債を保有するため、「長期国債買い入れ」が月4回、計1兆4000億円。一方、各種の短期オペレーション(吸収含む)は頻繁に実施され、1月は合計80本前後に達した。短期オペで構成される資産規模は61兆円だから、単純計算すると銀行券と保有国債の差を埋める短期オペの数は月約40本となる。
まとめると、銀行券残高に見合う資産77兆円のうち、国債43兆円分を日銀はわずか月4回のオペで支える。残り34兆円の資産は、短期オペを40本も駆使して構築する。
34兆円。これを政府紙幣の代替となる国債に入れ替えたら、何が起こるのか。短期のオペ本数は半減し、金融調節の負担が大幅に軽減する。