2009年3月決算期末が迫る中、日銀は4年半ぶりに株式の買い取りを再開した。法律の原則上、日銀は株が買えない。なぜ今回、それができるのか。実は、日本銀行法にそれを可能にする条項があるからだ。具体的には「43条」を指す。この条項は利便性が高く、緊急に株を買えるほど日銀法を万能にする。もっとも、「何でもあり」の条項には使いたくなる「甘く危険な香り」が漂い、高性能の武器と似ている。43条の濫用で通貨の信認が揺らげば、万能な日銀法は無能な法律と化すだろう。

 日銀は金融政策運営などで様々な金融商品を担保に取ったり、売買する。日銀法はその対象を細かく定めている。それでは、「例外的」に別の何かを買う、あるいは担保に取る場合にはどうするのか。ここで出番となるのが日銀法43条だ。

 この条項の内容をそのまま記すと、「日本銀行は、この法律(日銀法)の規定により日本銀行の業務とされた業務以外の業務を行ってはならない。ただし、この法律に規定する日本銀行の目的達成上必要がある場合において、財務大臣及び内閣総理大臣の認可を受けたときは、この限りでない」。

 噛み砕くならば、「日銀は法律で定められた業務しかできないが、業務外でやらなければならないことが生じたら、財務相および首相が了解すればやってもよい」という意味だ。2002年9月、株式購入を決めた日銀は法的に認められない株の買い入れを行うため、43条に基づいて認可申請した。そして今回、再びこれを活用して株買い取りを再開する。

43条なら、歯ブラシも買える?

 すなわち、日銀が「必要だ」と判断した政策を財務相らが認めれば、何でもできる万能の条項なのだ。ヘリコプターマネーの発想で家計にお金をばら撒こうと日銀が判断したとする。そして、どの家にもある商品、極端な話「歯ブラシを買いたい」と日銀が申請し、大臣が了解すれば購入できるのだ。トランプゲームのジョーカーのような存在だと言えよう。

 

「違法行為」の両替も可能に

 ここで日銀法における43条の位置付けを考えてみたい。前述したように、この法律は通常業務をかなり細かく規定している。例えば、金融調節に関する業務を規定した33条は8項目にわたり、日銀ができる取引内容を定めており、調節業務はほぼ網羅されている。逆説的に言うと、法律上の規定だけで業務を十分行えるため、43条の必要性は薄いと受け止められている。

 にもかかわらず、なぜ43条が規定されたのか。法案策定の段階で、株式購入が想定されていたわけではない。もしそうなら、「株の売買」が盛り込まれたはず。また、株はそもそも日銀から最も遠い存在であり、あるOBは「株を買うとか担保に取るとかはとんでもない、という教育を我々は受けてきた」と打ち明けるほどだ。

 現実問題としては、43条はあくまで通常業務の延長線で浮上する新たな状況に備えた条項だと考えられる。具体的には、(1)金融市場の発達に伴い、新たに登場する金融商品を取り込む、(2)国家の新たな施策のうち、日銀が対応した方がよい事案―などになろう。

 43条の妥当な使用例を挙げるなら、2000円札への両替がある。意外に思うかもしれないが、日銀は両替ができない。毀損したお札は交換するが、これは両替ではない。「同じお札」に替えてあげるだけ。例えば、毀損した1万円札を1000円札10枚に替えるのは「違法行為」となる。