「世界に先駆けて承認された」ロシア製ワクチン

 現在ロシアでは新型コロナの“第2波”が到来しており、感染者が増加の一途を辿っている。記事執筆時の12月16日の時点では、1日の新規感染者数は2万6074人、死者数は584人という深刻な事態となっている。そのため早急なワクチン開発が求められており、10種類の国産ワクチンの開発が同時進行中にある。

 その中でも、先陣を切っているのが「スプートニクV」である。このワクチンは5月以前から開発が進められてきた。とにかく世界で最初のワクチンを作るべく力を入れていたウラジーミル・プーチン大統領は、8月11日に同ワクチンを、フェーズ3の臨床試験が終わっていないにもかかわらず「世界に先駆けて承認された」と発表している。ドイツメディアによれば、承認前にはたったの38人しか治験に参加していなかったと報じられている。

 この「スプートニクV」は、ガマレヤ国立疫学・微生物学研究センターが開発にあたった。販売を担当しているのは、政府系ファンドのロシア直接投資基金(RDIF)だ。このワクチンは、12月5日からプーチンの号令とともに首都モスクワで大規模な接種が開始され、2020年中には200万人が接種されるとしている。

 ロシアも、やはり中国と同様、自国で開発したワクチンをなんとか海外で広め、存在感をアピールしつつ、競争で優位に立とうとしている。そのため現在、このワクチンはUAEやサウジアラビア、エジプト、インド、フィリピンなどでもフェーズ3段階の治験が進められている。

 そんなワクチン競争が激化する中で、自国でのワクチン開発をしていない、または開発に遅れている国は、自ずとこうしたワクチン開発国や企業からワクチンの販売先市場として狙われることになる。そう、日本もロシアからの「攻勢」に遭っているのだ。

 日本の製薬会社に、ロシアから接触があったのは、プーチンがスプートニクVを承認した頃のことだ。接触してきたのは、同ワクチンの販売を担当するロシア直接投資基金(RDIF)の職員だった。

 RDIFの担当者は、スプートニクVが世界で初めて承認されたワクチンであることを強調したという。その上で、単刀直入に、新型コロナウイルス開発で日本とロシアは手を結ぶべきであると提案した。

 彼らの狙いの一つは、ワクチン開発が遅れている日本に販路を持つ日本の製薬会社を取り込むことで、ロシア製ワクチンを日本市場にも一気に行きわたらせようというものだ。

 そしてもう一つは、製薬会社の関係者によれば、「日本にも製造拠点を置くことで、日本国内で普及させるのみならず、低価格と有効性をアピールしながら世界各地へ販路を広げ、新型コロナワクチンで世界の覇権を取ろう」というものだ。