一方の中国は今、ドナルド・トランプ再選よりもジョー・バイデン新大統領誕生をより警戒するようになっているという。というのも、7月にマイク・ポンペオ国務長官が中国共産党を厳しく牽制したスピーチによって、「大統領選でのトランプの勝敗にかかわらず米国の対中強硬路線は変わらない」と中国は確信したからだ。そうであるならば、孤立主義をとり一国で攻めてくるトランプの米国よりも、同盟国との協調路線を打ち出すバイデンの米国のほうが厄介である――。そう見るようになっている。

 もちろん米政府も中国のそうした考え方も察知している。だからこそQUADなどの協調路線で中国を牽制しようとしていると言われている。

将来的には、韓国、ベトナム、ニュージーランドも

 そしてこの動きはこの秋以降、一気に活性化することになりそうだ。関係筋によると、「マイク・ポンペオ国務長官は、9月と10月にこれら4カ国の外相らと立て続けに会談を行う予定でいる。またトランプ政権のロバート・オブライエン米国家安全保障担当大統領補佐官も、10月にはハワイでQUADの安全保障担当の高官らと会う予定のようだ」という。さらに年末には、QUADの本格化に向けた地ならしの意味で、インドが日本と米国と共に毎年行っている海上軍事演習「マラバル」に、オーストラリアが招待されると言われている。

 このQUADが、ビーガンが言うように、NATOのような軍事的同盟関係強化だけでなく、経済にもその範囲を広げれば、中国の広域経済圏構想「一帯一路」も牽制できるとの声も上がっている。

 では、日本にとってのメリットはあるのか。もちろん台頭する中国に対する戦略としてこうした連携は価値がある。日本は最近インドとの2国間関係も強化している。9月9日には、自衛隊とインド軍の物品や役務の相互提供を円滑に行う日・インド物品役務相互提供協定(日印ACSA)が締結されたばかりだし、11月には日印2プラス2が行われる予定だ。

 そこに橋渡し役として、QUAD4カ国からさらに参加国が増えることもいとわないはずだ。米国務省の関係者によれば、日米豪印に加えて、まずは韓国とベトナム、ニュージーランド(QUAD+3)を参加させるという目論見があるという。

 もともとインドは非同盟主義の国だ。そのインドがQUADに興味を示している理由の一つには、やはり国境問題などで中国との関係悪化がある。2020年6月、ヒマラヤ山脈地帯の中印国境沿いで、インド軍と中国軍が素手での殴り合いや投石という形で衝突し、死者まで出る事態になった。そしてその後にインド政府は2度に分けて、180近い中国製モバイルアプリの使用を禁止すると発表し、世界が両国関係の行方を固唾を呑んで見守った。

 余談だが、かつて筆者は、インド側のカシミール地方での取材中にラダック地方に入ったことがある。標高がおよそ3000メートル以上と高く、途中で高山病一歩手前になるほどだった。だが、インドと中国が衝突した国境地域は標高4200メートルと言われる。とんでもない過酷な中で乱闘を行なったということになる。考えただけで頭痛がする。

 そして、こうした動きを受け、中国もロシアを巻き込んだ「牽制」の動きを見せている。9月11日、ロシアが仲介するという形で、インドと中国が国境での紛争において、「信頼醸成措置を推進する」と合意したと発表。明らかにインドが西側と関係強化していることを意識した動きだ。

 現時点では、国境沿いの争いは小康状態が続いているが、一触即発の状態は変わらない。今後インドでは、前述のアプリ禁止措置のようにさらなる経済的な対中措置が取られる可能性もあり、中印関係はさらに悪化するという見方もある。

 そのインドも、中国の台頭を目の当たりにし、共闘する国が必要だと感じているということだろう。今後、さらにQUADとの連携強化を進めることになると見られる。

 QUADが4カ国に留まるにせよ、さらに参加国を増やしていくにせよ、この対中国の多国間に渡る共同戦線が実効性を備えてくれば、やはり「安倍首相の外交レガシー」がもう一つ増えることになるだろう。