(PanAsiaNews:大塚智彦)
インドネシアのコロナウイルスの感染拡大が一向に収まらない。首都ジャカルタ郊外の工業団地で操業する日系メーカーを含めた多くの企業でクラスター(集団感染)が起きるなど、感染者数は1日100人規模で増加を続けている。医療現場では防護服などが不足する一方、過酷な勤務実態などからこれまでに医師100人がコロナ感染で死亡するなど、医療崩壊が極めて現実味を帯びてきている。
ところが感染対策の指揮を執るジョコ・ウィドド大統領は、国民に対して「マスク着用、手洗い励行、社会的安全距離の確保」というルール徹底や、中国製薬会社との協力によるワクチン開発・臨床試験を急ぐことくらいしかしていない。
例えば保健衛生上のルール違反者に対する“罰則”が強化されている。マスク非着用者は罰金が科されるか、その場での腕立て伏せや国歌斉唱、国家五原則の復唱などを強制される。それだけならまだ笑って済ませられるかもしれないが、違反者がなかなか減少しないため、最近では「棺桶に横たわり死を体験させる」という非常識な対応まで始まっている。もはやインドネシアのコロナ対策は迷走状態と言える。
医師100人死亡、医療崩壊の瀬戸際
インドネシア医師協会(IDI)は国内の医師や看護師などの医療従事者の感染、感染死の状況をまとめては発表しているが、8月31日の発表による最新の数字として院内感染でコロナによって死亡した医師がついに100人に達したことが明らかになった。
死因としてIDIが挙げているのが、慢性的な医師不足と感染患者の急増で医療現場の勤務状況が過酷になり十分な休養が取れず大半の医療従事者が過労状態にあること、さらには不十分な医療用マスク、フェイスシールド、手袋、防護服などの状況があると指摘している。
その背景には「医師としての高い倫理観から目の前にいる患者が必要としている以上、いかに装備が不十分で疲れ切っていても治療しなければならない」という医療従事者の崇高な信念があるとされている。
こうした状況に、インドネシア大学の疫学専門家や医療専門家からは「このままでは医療崩壊となる」との警告が繰り返し叫ばれているのだが、政府も地方自治体も、経済界に配慮して、経済活動を停滞させる「社会制限の厳格化」には及び腰だ。