銃野放しを取り上げない両候補
ドナルド・トランプ米大統領は、「法と秩序」を大統領選の争点にするのに懸命だ。
新型コロナウイルス感染症など頭の片隅にすらないような言動が続いている。9月1日、ウィスコンシン州ケノーシャを視察した。激戦州の一つだ。
黒人男性が白人警官に背後から撃たれて重傷を負い、これに怒った民衆が抗議、その一部が暴徒化し、一部建物が放火で崩れ落ちた。
その現場に立ったトランプ氏はテレビカメラを前に「これは平和的デモではない。米国内で起こったテロだ」と言い放った。
その前日8月31日には、西部カリフォルニア州ロサンゼルスで郡警察の白人警官が交通違反容疑の黒人青年を追跡中に背後から銃撃し、即死させる事件が起こった。
現場は低所得層密集地サウス・ロサンゼルスの路上。1965年にワッツ暴動が発生した、当時「サウスセントラル」と呼ばれている地域だ。
抗議デモ参加者たちが郡警察本部を取り囲み、一触即発状態が続いている。まだ暴徒化はしていない。
9月3日現在、一部で小規模な略奪はあったが、平和的な抗議デモが続いている。
エリック・ガーセッティ・ロサンゼルス市長(49)*1は市警察署長、市消防署長を左右に従えてテレビでこう訴えた。
「警官も皆さんと同じように家族も持ち、街の治安を守るために日夜必死で働いている。彼らもまた市民だ」
「デモは米市民の権利だ。しかし略奪や放火は許されない犯罪だ。皆何をすべきか。愛すべき街、ロサンゼルスが全米に模範を示そうではないか」
暴徒化しないのは、この市長の訴えが功を奏しているのかもしれない。トランプ大統領にはこういう米国民向けの訴えをしてもらいたいものだ。
*1=2013年、市議会議長を経て、初のユダヤ系市長、メキシコ系としては2代目市長として就任。父方はエルサルバドル系メキシコ人、母方はロシア系ユダヤ人。コロンビア大学を経て、ローズ奨学生として英オックスフォード大留学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで博士号取得。将来の民主党大統領候補としての呼び声が高い。