これは地方の小さな「弁当屋」を大手コンビニチェーンに弁当を供給する一大産業に育てた男の物語である。登場人物は仮名だが、ストーリーは事実に基づいている(毎週月曜日連載中)。
前回の記事はこちら(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61798)
昭和58~60年:36歳~38歳
NSS(日本惣菜食品協同組合)理事会での審議を終え、エンゼルスの役員が退席した後、理事である各社の社長の本音が聴けた。
その大半がエンゼルスに対する愚痴だったが、時に矛先が恭平に向かうこともあった。
「本川君、あんたの処の弁当は良く売れているらしいが、原価を掛け過ぎじゃないのか。原価を掛ければ、売れるのは当たり前だ。原価を抑えて、売れる商品を開発するのが本当の経営だぞ」
「はい。でも、売れたら儲かる弁当は、間違いなく売れませんよ。儲けは別にして、先ず売れる弁当を作って、売れてから、どうすれば利益が出るか、考えるようにしています」
「そりゃ、経営じゃない。単なる自己満足。エンゼルスへのご機嫌取りに過ぎない」
「広島では、まだまだエンゼルスは新参者なんです。今は、お店の好感度を上げることを最優先に考え、エンゼルスのファンを一人でも増やしたいんです」
「ほぉ、成程。ところで本川君、あんたはどれくらいの役員賞与を取っているんだ」
「恥ずかしい限りですが、社員と殆ど変りません」
「そりゃ、駄目だ。そんなことじゃ、いざと言う時、会社を持ち堪えられんぞ」
「仰る通りです。その点に関しては、骨身に沁みて経験しています。社長は、どのくらいの額が適当だとお考えですか?」
「そうだな、最低でも社員の平均給与の10倍ってところかな」
「10倍!」
「驚くことはない。社員10人が束になっても敵わないような、仕事をすれば良いんだよ」
「はぁ、そうですか…」