連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第12回。感染拡大を防ぐのは、ひとりひとりが自分事だと思って行う「感染しない、させない」努力である――讃井將満医師(自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長)と、感染管理の専門家・坂木晴世看護師との対談後編をお届けする。
基本の徹底――院内感染を防ぐカギは、標準予防策(※)の徹底にありました(第11回参照)。
(※)標準予防策:患者が感染しているかどうかに関係なく、汗を除く体液、粘膜、傷がある皮膚に感染性微生物があるという前提で行う手指衛生などの予防策。
じつは、“基本の徹底”は病院に限らず、社会全体の新型コロナウイルス感染症対策にもあてはまります。前回(第11回)に引き続き、感染管理の専門家である坂木晴世看護師にお話を伺います。
感染管理認定看護師、感染症看護専門看護師(2010年、国内2人目の資格取得)、日本環境感染学会評議員。国立病院機構西埼玉中央病院看護部に所属し感染管理を担当するかたわら、埼玉県新型感染症専門家会議のメンバーとして新型コロナウイルス感染症対策にあたっている。
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讃井 前回は、新型コロナ感染症で院内感染を起こした施設の共通点として、標準予防策が万全ではなかったのではないか、という指摘をされていました。逆に、標準予防策を徹底したことでよい結果が出たのでしょうか?
坂木 新型コロナウイルス感染症はステルス性があるので、いつの間にか施設内にウイルスが持ち込まれてしまうことがあります。埼玉県の場合、第1波後に県内の高齢者施設でいくつかの発症例がありました。けれども、大きなクラスターになった事例は少なく、院内感染の広がりはかなり抑えられました。県庁を中心に各施設が問題意識を共有し、標準予防策を徹底した結果だと、評価していいのではないかと思います。
讃井 第2波で重症者が増えていないひとつの要因として、高齢の感染者の少なさがあげられると思います。その背景には、正しい標準予防策が浸透して、高齢者施設でクラスターが発生しなかったことがあるのですね。
坂木 私は感染管理の仕事をしてもう20年を超えているのですが、こんなにみなさんが手指衛生(手洗い)を真剣にやるのを初めて見ました。ノロウイルスが猛威をふるった時でさえ、ここまでではありませんでした。これまでできなかったことができるようになる機会になったと言えますし、新型コロナ感染症はそれぐらい恐ろしい感染症なのだと医療従事者に認識されているとも言えます。