(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)
2020年7月、理化学研究所の横倉祐貴上級研究員と京都大学大学院の川合光教授が、「蒸発するブラックホールの内部を理論的に記述」したと発表しました*1。「ブラックホールは未来の大容量情報ストレージ?」という、刺激的な副題がついています。
そもそもブラックホールとは何なのでしょうか。その内部はどうなっているのでしょうか。どうしてそれが蒸発したり情報を蓄えたりするのでしょうか。
基本から解説しましょう。
*1:https://www.riken.jp/press/2020/20200708_3/index.html
黒きもの、汝の名は穴なり
話は1970年代にさかのぼります。当時、世の中はブラックホールという珍妙な「物体」の話題で盛り上がっていました。誰も見たことのないその「物体」は、
・重力が強すぎて、光さえも脱出できず、真っ黒に見える
・その近くでは空間が歪み、時間は止まり、非常識な現象がさまざま起きる
・宇宙に存在するといわれるが、そんなもの実在しないという人もいる
というのです。
21世紀に生まれた子供もそろそろ成人する今日このごろでは、ブラックホールの観測的証拠がいくつも挙がっていて、その実在は人々に受け入れられています。
しかし当時はまだ確たる証拠はなく、ブラックホール肯定派と否定派が論争を繰り広げていました。