中国の戦略は、2016年9月末、習近平国家主席が主宰した中国共産党中央政治局のグローバル・ガバナンスの変革に関する「集団学習」で強調した下記の情勢認識が背景になっている。

「国際的なパワー・バランスの消長・変化とグローバル化による課題の増加で、グローバル・ガバナンスを強化し、その変革を進めることが大勢となっている」

「われわれはチャンスをとらえ、情勢に逆らわず、国際秩序をより公正かつ合理的な方向へ発展させることを推し進める」

 この情勢認識は、劉明福著『中国の夢-ポスト・アメリカ時代の中国の大国的思考と戦略的位置づけ』』(China Dream :“Great Power Thinking and Strategic Positioning of China in the Post-American Age”)の下記論旨と完全に重なっている。

「アメリカが世界の覇権を握っていたのは、歴史的に見ればほんの短い間のことだ。その短い時代は終わりに近づいている」

「アメリカに代わってまず西太平洋地域の、そしてゆくゆくは世界のリーダーになることこそ中国の運命だ」

 言い換えれば、国際的なパワー・バランスにおいて、米国が「消(衰亡)」へ、中国が「長(興隆)」へと変化するのが大勢となっており、中国が国家目標として掲げる「中華民族の偉大な復興」、すなわち中国の覇権をグローバルに拡大し、国際秩序を自国に都合の良い「中華的秩序」に変え、発展させる好機であると考えているからであろう。

 しかしその一方で、中国は、米国は本当に衰亡しているのか、その真の国力と同盟の力の検証は正しいのかについて問い直す必要があろう。

 米国は、依然として世界最強の国家であり、世界に多くの同盟国と友好国を持っている。

 ドナルド・トランプ大統領の同盟国に対する無神経な扱いと長期的な同盟関係からの離脱をほのめかす言動はリスク要因ではある。