「暴れん坊将軍」を愛した晩年

 冒頭で触れたように、李氏の秘めたる強い気性は2018年7月の、筆者にとっての最後のインタビューでも発揮された。一期目の蔡英文総統にも矛先は向けられ、「今の政府じゃだめだ」「総統が何をしているのかわからない」と、その政権運営方手法を徹底的に批判。確かに同年11月の統一地方選では、与党・民進党は野党・国民党に大敗を喫する羽目になったので、李氏の強い蔡政権批判の言葉は、民進党を心配するあまり、憤慨しての発言だったのだろう。

 もちろん、李氏らしい一面として、同時期ちょうど西日本を襲った豪雨についても、自身の2001年の岡山県倉敷市訪問と、倉敷中央病院で受けた心臓カテーテル手術の思い出を語り、「大きな被害が出ているところがあると聞いています」と災害の規模の大きさへの心配に言及。あわせて、自身の大学進学の際、最終的に京都帝国大学(現京大)農学部で農業経済を学んだものの、当初は岡山医科大(現岡山大)で医学の道を志すつもりだったことなども紹介しながら、「これ以上、被害が拡大しないことを願うと同時に、少しでも早く平穏な生活に戻られることを願っております」と被災地への気遣いを忘れなかった。

 また李氏は、この時期、台湾のケーブルテレビで中国語の字幕付きで連日放映されていた日本の時代劇「暴れん坊将軍」を「毎日見ているんだ」と、熱心な視聴者であることにも話題を広げ、そこから常に庶民の存在を気にかけるという、理想のリーダー像を考察している姿勢についてもユーモラスに示してくれた。

台北市郊外の自邸でインタビューに応じる李登輝氏=2018年7月8日(吉村剛史撮影)

 戦後の日本と台湾の関係緊密化に李氏が果たした役割の大きさは今さら紹介するまでもないが、李氏によって民主化、本土化の進んだ台湾は、今回の新型コロナウイルス感染症の水際防疫に象徴されるように、特定の面では日本をはるかに凌駕する実力をつけている。日本は台湾との良好な関係がありながら、その力を見落とし、参考にもできず、初期対応に出遅れた面は否めない。

 公衆衛生をはじめ、あらゆる面で日本の先進性を信じて目標としてきた台湾社会には、これまで憧れが強かった分、今回の日台コロナ対策の差を見て、日本に対する失望感も広がり始めている。現実に台湾では、ITや英語教育に力を入れる一方で、日本語学習者の減少も目立つようになってきており、「激変の時代」に李氏が呼びかけた「日本と台湾は関係をより緊密化させなければ」という日本人へのメッセージが持つ意味は極めて重いといえそうだ。