「心理的安全性」の高い職場をつくる4つのメリット

 次に、職場という大きな視点に立った際、心理的安全性の高さが職場全体にどのような効果をもたらすのか。米グーグル社によると、4つのメリットがあるという。

【1】情報やアイデアの共有が盛んになる
 自分の考えを伝える際、発言が否定されるという不安がないため、個人の意見やアイデアが多く集まるという。職場全体のコミュニケーションが活性化することで、従業員間の共有もされやすくなる。

【2】ポテンシャルの向上
 お互いを認め合い、尊重し合うという価値観の共有が職場内に根付くため、従業員同士が切磋琢磨する。自発的な学習も増え、個人のポテンシャル向上につながっていく。

【3】目指すビジョンが明確になる
 心理的安全性が高い職場は、組織の目標や課題に対して、従業員が自由に議論できる環境が整っている。建設的な議論が行えることで、目指すビジョンが明確になりやすい。腹落ちしたビジョンを企業全体で共有でき、全員が結束して同じ目標に向かえるため、目標達成のスピードも速いという。

【4】エンゲージメントの向上
 居心地がいい、仕事がしやすいなど、心理的に安全な職場で働く従業員は離職率が低いとされる。仕事へのやりがいが生まれ、自分の能力や特技を活かしながら業務にも取り組めるため、今の会社で長く働きたいと思うようになる。その結果、優秀な人材の流出や退職の抑制にもつながる。

「心理的安全性」が低いと起こる4つの行動特徴とは?

 一方で、「心理的安全性」が低いと、どのようなことが従業員に起こるのだろうか。先述したエドモンドソン教授によると、心理的安全性が低い職場では、多くの従業員が自己印象操作を行い、本当の自分を偽って働いているという。ここでは同教授がスピーチフォーラム『TED』で示した4つの行動特徴を紹介したい。

【1】無知だと思われる不安
 業務で知らないことや不明点を聞く際、「こんなことも知らないのか」と思われないか不安になり、上司や同僚に必要な質問ができなくなってしまう。相談することが不安になり、従業員同士のコミュニケーションも自ずと減少していく。

【2】無能だと思われる不安
 業務で失敗した際、「こんなこともできないのか」と思われないか不安になり、ミスを報告しなかったり、自分の失敗を認めなかったりするようになる。

【3】邪魔をしていると思われる不安
 ミーティング時に、自分の発言で議論が長引いたり本題から外れたりした際、上司や同僚から「いつも議論の邪魔をしてくる」と思われないか不安に駆られてしまう。自分から提案や発言をしなくなっていくため、新たなアイデアやイノベーションも生まれにくくなる。

【4】ネガティブだと思われる不安
 現状の改善について提案しようと思った際、「いつも他人の意見を否定する」と思われないか不安になってしまう。上司や同僚に否定的に捉えられる可能性があると、発言をためらったり、本当に重要な指摘をしなくなったりする。やがて常に自分を隠して仕事をするようになる。

「心理的安全性」が高い職場は、各自が安心して自分の考えを自由に発言したり、行動に移したりしている。その結果、各部署でイノベーションが生まれたり、従業員のエンゲージメントが向上したり、組織において多くのメリットを生み出すことができる。また、従業員個人に対しても、パフォーマンスの向上やストレス緩和など、スキルやメンタルヘルスの面で利点がある。心理的安全性は、生産性、離職率、新規事業、健康経営など、様々な人事課題と結びついており、企業によっては、心理的安全性を高めるための研修も導入している。これを機に、心理的安全性の高さを意識した職場づくりを行ってみてはいかがだろうか。

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HRプロ編集部

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