住宅地の家の玄関扉に猫の写真が貼ってありました。珍しいな、と見ていると、「猫が好きですか? うちの猫を見たい?」と声がかかりました。

 裏庭へどうぞと言われるがままに進めば、「写真を撮りたいのでしょう? 猫好きな人はすぐにわかるわ。猫らしい仕草を撮るといいと思うの」。そう言って奥さんは、ヤシの葉を拾い、猫にポーズをつけてくれました。

 面白い犬と出会いました。名前はベン、7歳のオスです。「スタッフォードシャー・ブルテリア系だと思うけど、保護施設からもらってきたから、正確にはわからない。雑種だと思う」と、飼い主の男性が話してくれました。

 彼は警察官で、夜勤明けにはいつも、留守番をしていたベンのご機嫌をとるため、いっしょに海岸へ来るのだそうです。「じゃ、ベンを頼んだよ。僕は、ウィンドサーフィンをしてくる」と、沖へ行ってしまいました。世話係はわたし?

 男性と話している間は、ココナッツの皮を剥いで、中のジュースを飲んでいたベン。男性がいなくなると、ココナッツをわたしの足元へ転がしてきました。

「投げるの?」と聞くと、後ずさりしながら大きく吠えて促します。よぉし。投げてやると、飛ぶように海へとジャンプし、ココナッツを取ってすぐさま戻ります。5、6回投げたので「もうおしまい」と告げると、ベンは「まだまだ!」と、今度は砂を掘りはじめました。

 ココナッツをまたわたしの足元に置き、「ここへ蹴ってみろ。ゴールを阻止するから」と、ジェスチャーで誘います。「ゴールを決めてやる!」と燃える気持ちで蹴り込みますが、何度蹴っても、いとも簡単に鼻先と前足でクリアされてしまいます。もう、わたしも砂まみれです。

「もうダメ。この犬のタフさにはついていけない」と思っていたところへ、ようやく飼い主が戻って来ました。ベンからこんなことをさせられていたと話をすると、「わたしでさえこの犬に付き合うのは大変なのに、よく頑張った」と、褒められました。

 誰が教えたわけでもない、ベン自身が考えた遊びだそうです。サーフィンをする飼い主を退屈して待っているとき、落ちたココナッツを見つけ、そのうち中のジュースを飲むことを覚えました。その後、ボール遊びができることに気がつき、遊びが発展し続けます。「ベンの一番の特技は、人のよさそうな人を見抜く眼力だね」と言われ、「降参だ」と思いました。