2017年の大統領選に出馬表明した金鍾仁氏(同年4月5日、写真:YONHAP NEWS/アフロ)

 2020年6月5日、韓国で与党圧勝の総選挙を受けた第21代国会が幕を開けた。

 2年後の大統領選挙に向けて政局の動きも活発になることは間違いないが、そんな中で「基本所得支給」が争点として急浮上している。

「基本所得」についての論争に火をつけたのは、4月15日の総選挙で惨敗した保守系の未来統合党が事実上の党首である「非常対策委員長」として招聘し、6月1日に就任した金鍾仁(キム・ジョンイン=1940年生)氏だった。

パンを食べたくてもお金がないなら…

「パンを食べたくてもお金がないとしたら、どんな自由があるというのか?」

 金鍾仁氏は、就任前後からこんな話を繰り返していた。保守政党の理念である自由のために「基本所得支給」を導入すべきだというのだ。

 保守系の未来統合党は、それまで文在寅(ムン・ジェイン=1953年生)政権の、失業手当拡大などの経済政策を「ばらまき」と痛烈に批判してきた。

 小さな政府、減税、規制緩和などこれまでの保守政党特有の政策枠組みから抜けられなかったのだ。総選挙惨敗を機に、「一気に政権与党もびっくりの政策を打ち出した」(韓国紙デスク)わけだ。

 韓国メディアは、こうした発言を「中道層を取り込むための未来統合党の左シフト」とも報じている。

保守、進歩を渡り歩く

 金鍾仁氏は、韓国の政界では「保守、進歩を問わない救世主」としてここ数年は有名だ。

 ドイツ留学後の1970年代にソウルの名門大学である西江(ソガン)大学教授になった。

 若い頃から直接政策にかかわることへの志向が強く、全斗煥(チョン・ドファン=1931年生)政権で経済ブレーンから国会議員となる。

 盧泰愚(ノ・テウ=1932年生)政権では閣僚や青瓦台(大統領府)の経済首席秘書官を歴任する。

 ところがその後、進歩系の政党に転じ国会議員になる。