マイノリティへの対応は、個人ではなく職場全体の問題として考える

 管理職や人事労務担当者が、性的マイノリティの問題に対して持つべき視点は次の2つだ。

 まず、「個人ではなく、職場環境全体の問題ととらえ、従業員の困りごとを解決して、より仕事に打ち込める環境をつくるにはどうしたらよいか」という点だ。これをしっかり頭に入れておこう。

 相談を受けたら、その人が何に困っているのか、どのような対処を望んでいるのか、まず聞くようにする。「こういう対処を望んでいるだろう」と勝手に想像して、本人に確認せずそのまま先走ってはいけない。カテゴリーで判断するのではなく、その人自身の仕事に対する思いや、個別の事情をしっかり聞き取るようにしよう。

 そして、何より注意しなければならないのは、「プライバシーの尊重」という点である。管理職や人事労務担当者にはカミングアウトしたとしても、社内のだれにでもその情報が伝わることを望んでいるとは限らない。本人の許可なく、別の人に伝えることは「アウティング」といって、重大な人権侵害になりうる。

 具体的な困りごとは、下記の3点に関することが多い。

・通称名の使用
・制服など服装の規定
・トイレ、更衣室

 通称名については、結婚改姓後、旧姓の継続使用を希望する従業員の場合と同等に考えればよいだろう。服装の規定については、そもそも制服といった着衣で性別を可視化することが業務上必要か、という点から考えたい。

 トイレについては、最も多く出てくる課題であり、解決しないと健康にも影響がある。自身の性自認に合ったトイレを使いたいのか、誰でも使える多機能トイレを設置してほしいのか、ニーズによって対処は異なるが、毎日何度も使用するトイレが、自分の性自認と一致していないことが、大きなストレスになることを理解すべきだ。

 更衣室についても、トランスジェンダーだけではなく、他人に体を見られたくないというニーズは案外あるものだ。カーテンで仕切られたスペースを設けるといった対応を考えてみよう。


李怜香(り れいか)
メンタルサポートろうむ 代表
社会保険労務士/ハラスメント防止コンサルタント/産業カウンセラー/健康経営エキスパートアドバイザー
http://yhlee.org

著者プロフィール

HRプロ編集部

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