EY連載:大変革時代における組織・人事マネジメントの新潮流(第2回)

 AI(人工知能)、ビッグデータ、IoTなど、第4次産業革命とも呼ばれるデジタル化の波は組織業務のあらゆる場面に大きな変革をもたらします。他方で発展途上の領域であるため、自組織が変革プロセスのどの付近に位置しているのか、次にどのような変化が来るのかが見えずに悩んでいる組織も数多く存在しています。そこで本稿ではまず、人事領域のDX(Digital Transformation=デジタルトランスフォーメーション)が発展する方向と、各段階において起こりやすい課題は何かを概観します。

なぜ、「HRDX」が組織に重要なのか

 DX(Digital Transformation=デジタルトランスフォーメーション)とは、いわゆるビッグデータやアナリティクスなど、近年新たに発展してきたデータ関連技術を用いて大きな構造変革を起こすこと、また、これらの世界的変化に遅れないよう必要な自己革新を行うことを意味します。経済産業省の定義にある「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」(2018年12月DX推進ガイドライン)が示すとおり、DXは「あらゆる産業」、「あらゆる業務」において競争性を保つために必要不可欠な取り組みとなってきています。

 本稿で扱う「HRDX」とは、組織人事(HR)領域におけるDXを指します。HRでは取り扱うデータに個人データ・プライバシーデータを多く含み、DXの中でも特に慎重論が多く見られる領域です。しかし、DXがあらゆる業務で不可避となりつつある以上、HRも例外ではなくなってきています。また、経産省の定義にもあるように、HR以外の領域のDXにおいても「組織」や「企業文化・風土」などHR領域が担う要素が多く、HRDXをうまく推進した企業がDXに成功すると言っても過言ではありません。反対に、HR領域以外のDXがどれだけ進んでいても、HRDXが後手に回っている組織では、DXは特定領域に限定された閉じた取り組みとなってしまい、真の意味でDX化した組織は実現し得ないのです。

 では、HRDXにはどのような難しさがあり、どう乗り越えればよいのでしょうか。本稿では、EYがこれまで企業のDX支援を通じて得た経験と知識をもとに、HRDXを進めるにあたりつまずきがちなポイント、そしてそれを乗り越えるための方法論をご紹介します。

HRDXを構成する4つのステージと、起こりがちな課題

 HRに限らず、DXはおおむね「管理」「視認」「分析」「創出」という4つのステージに分けて考えることができます。具体的なHRの取り組みを例に、各ステージの概要と頻出課題を見てみましょう。

ステージ1:管理
 1つ目は、まさに管理のために情報を収集するステージです。例えば採用のために候補者の情報(履歴書やSPI結果など)を集める、労務管理のために勤怠情報を集める、福利厚生のために家族構成情報を集める、といったことが該当します。目的は管理ですからそれぞれの管理担当者が担当情報を把握していればよく、フォーマットはたとえ紙であっても担当者が管理できていれば問題ありません。ただし、このステージで起きがちな課題は、主に組織規模の拡大にアナログな管理方法では追い付かないことです。情報管理体制がわかりづらく情報の重複取得が生じる、複数の担当者がそれぞれ独自のフォーマットで情報を収集してしまい組織横断的な管理がしづらくなる、といった問題が挙げられます。