(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)
EUの基本理念が危うくなっている
ようやく国際オリンピック委員会(IOC)や安倍晋三首相がオリンピック・パラリンピックの延期を口にし始めた。3月22日にはカナダのオリンピック委員会(COC)が、夏の東京五輪への不参加を表明したというニュースが流れた。
WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長は、3月11日になって「パンデミック(世界的な大流行)とみなせる」と表明した。遅すぎた表明であったが、実質的なパンデミック宣言である。イタリア、フランス、スペイン、ドイツなどヨーロッパでの感染拡大は猛烈なものである。ドイツをはじめとする多くの国々が国境を閉鎖せざるを得ない事態に追い込まれている。EUの基本理念は、「人・物・資本・サービスの移動の自由」にある。新型コロナウイルスによって、この基本理念が脅かされているのだ。
日本も決して安心できる状態ではない。新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が3月19日に、「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」を発表した。そこには、今のところは持ちこたえているが「クラスター(患者集団)の感染源(リンク)が分からない感染者が増加していくと、いつか、どこかで爆発的な感染拡大(オーバーシュート(爆発的患者急増))が生じ、ひいては重症者の増加を起こしかねません」と分析している。
日本でもヨーロッパで起こっているような事態が発生する可能性があるということなのだ。この時に予定通りに東京五輪が開催できることなど、もはやあり得ない。
森会長、山下JOC会長の無責任な発言
東京五輪大会組織委員会の高橋治之理事(元電通専務)が3月11日、朝日新聞の取材に応じ、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、「コロナウイルスは世界的な問題になっている。日本が大丈夫ならそれで開催できるわけではない。予定通り開幕するのがベストだが、別のプランも考えなければいけない」「延期を視野に入れるなら、今から準備しないと間に合わなくなる」と語った。