「特別条項」に上限時間数が新設
さらに、臨時的で特別な事情があり、労使が合意をした場合には、年6カ月を限度に「月45時間、年360時間」という原則的な上限を超えた時間外労働が可能になる。このような仕組みを「特別条項」と呼ぶ。ただし、「特別条項」によって可能となる時間外労働の時間数については、次の3つの上限規制が設けられている。
(1)時間外労働が年720時間以内
(2)時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
(3)時間外労働と休日労働の合計について、複数月の平均が1月当たり80時間以内
例えば、時間外労働が可能な年間時間数は、原則として「360時間」までだが、「特別条項」を利用すれば上記(1)にあるとおり、2倍の「720時間」まで可能になるわけである。
この「月45時間、年360時間」を超えて時間外労働を認める「特別条項」という仕組みは、過去のルールにも設けられていた。しかしながら、従前の「特別条項」には、上記のような「年720時間以内」といった時間制限までは設けられていなかったため、事実上、「特別条項」により上限なく時間外労働をさせることが可能であった。
ところが、新しい「特別条項」には上限が設けられ、上記(1)~(3)の全ての時間制限を満たさなければならない。つまり、「特別条項」による上限のない時間外労働が、法律上、不可能になったのである。
法定休日に労働した時間も「特別条項」に合わせて考える
また、「特別条項」の(1)の基準は、時間外労働の時間数だけの基準であるのに対して、(2)と(3)は時間外労働と休日労働の時間数を合算した基準になっているという特徴もある。
企業には、社員に対して原則として週に1日の休日を与えることが法律上、義務付けられている。この法律上、義務付けられた休日を「法定休日」という。
例えば、週休2日制の企業であれば、2日の休日のうちの1日が「法定休日」となる。この「法定休日」に労働した時間も、「特別条項」の(2)と(3)では追加することが求められる。
このように、2020年4月から中小企業にも適用される「時間外労働の上限規制」は、時間外労働の上限時間自体は以前の告示であった頃と変わらないものの、法律化されたことで違反行為には罰則が定められている。また、原則の上限時間を超えることが許される「特別条項」の仕組みが、非常に複雑になったという特徴を持っている。新旧制度を比較すると、下図のとおりである。
次回は、「時間外労働の上限規制」の“具体的な事例”について考察してみたい。
著者プロフィール HRプロ編集部 採用、教育・研修、労務、人事戦略などにおける人事トレンドを発信中。押さえておきたい基本知識から、最新ニュース、対談・インタビューやお役立ち情報・セミナーレポートまで、HRプロならではの視点と情報量でお届けします。 |