ドル預金がうまくいかなかった筆者の体験

 筆者がサラリーマンだった頃のお話です。2001年の暮れも押し迫っていた頃です。
 ある銀行の「キャンペーン金利」のポスターに釣られ、ドル建ての預金を組みました。キャンペーン金利は、確か8%だったか、10%だったか。そのキャンペーン金利が付くのは最初の3か月間だけで、その後は3か月ごとに満期を迎える、単なるドル建て定期預金に過ぎません。
 (ちなみに、当時の筆者はファイナンシャルプランナーなどの資格は持っていませんでした)

 その後、この銀行は2度の合併を繰り返しましたが、筆者のドル建ての定期預金は、2020年の今でも続けています。3か月ごとの満期を繰り返しながら。
 ここで特筆したいのは、このドル建ての預金を始めて以来、すでに19年が経っているわけですが、筆者の記憶の限りでは、ずっと元本割れ、つまり、ずっと為替差損の状態が続いています。ドル建てとはいっても3か月満期ですから、3か月ごとに利息が付いているにも関わらず、です。

 先ほどの「世界経済に占めるアメリカのシェアが下がっている」というお話と、筆者の体験談をあわせて、過去から今を振り返ると……。
 「時間の経過とともに、ドルの価値が下がっている」という考え方もできるのではないでしょうか?

 さて、ドル神話を信じている読者の皆さま、あるいはドルを信仰なさっていらっしゃる読者の皆さま。ここまでご覧いただいて、「ドルだけ」を資産として持つのは、いかがでしょうか?

 アメリカのドルも、日本円と同じ現金です。本稿のタイトル『現金のリスク』が示す「現金」は、何も円だけではないのです。円には円の、ドルにはドルのリスクがあるということです。

「投資は長期で」という視点

 さて、本稿では過去4回ほどにわたって、「特定の資産に集中しない」ということを述べてきました。
が、ここで「投資は長期で」という新たなポイントが、突然登場してしまいました。
 と申しますのも、筆者は先ほど「時間の経過とともに、ドルの価値が下がっている」と言及したからです。

 「投資は長期で」は、投資をするうえでとても大切なポイントなのですが、もうひとつ、欠かしてはならないポイントがあります。
 それは、長期で投資を行うのなら「時間の経過とともに成長が見込まれる資産」に投資する、という点です。

 つまり、「時間の経過とともに、成長する資産に、長期の投資」を行うということです。
 でないと、その投資は単なる「時間の浪費」にしか過ぎないからです。
 (ちなみに、筆者は「時間もコスト」というスタンスでいます)

 筆者のドル預金の体験が、典型的かつ具体的な例といえるでしょう。
そもそも現金にしか過ぎないドルは、「時間の経過とともに、成長が見込まれる資産」ということができるのでしょうか?

「特定の国のお金に集中しない」の答えは?

 ここまで為替差益・差損について述べてきましたが、結局のところ、「特定の国のお金に集中しない」とは、どういうことなのでしょうか?
 冒頭に挙げた問いに対しては、どうやら「ドルだけ」では答えにはならなさそうですね。

 では、ドルも含めて、より多くの国のお金を持ち(投資し)、それの為替差益を狙っていく……。これも、果たして冒頭に挙げた問いに対する答えになるでしょうか?
 残念ながら、答えにはなりません。

 理由は2つ。
 繰り返しになりますが、現金は「時間の経過とともに、成長が見込まれる資産」とは言い切れないと思います。
 それに為替差益を狙うのは、非常に難しい。先ほどの為替レートの表をご覧いただければおわかりだと思いますが、為替はおよそ「傾向」というのがつかめない。

 「特定の国のお金に集中しない」とは、「為替差益だけ」を得ようとするのではなく、「時間の経過ととに、成長が見込まれる資産」に投資するついで(?)に、「為替差益も」得る、というスタンスです。つまり為替差益は副産物です。

 そもそも投資とは、「成長が見込まれる資産」に投資を行うことなのです。その「成長が見込まれる資産」の価値をドルで表す、つまり「ドル建ての成長が見込まれる資産」に投資を行う、これが答えになりそうです。
 例えば、アメリカの株式などですね。アメリカの株式などに投資する投資信託もそうです。銀行や証券会社で投資信託を買うときは円で払いますが、その価格の変動には為替の影響も含まれています(ただし「為替ヘッジあり」の投資信託については少し事情が異なりますが)。

 さて、次回は、「4つの偏らない、バランスの良い投資」について、簡単なまとめを行ってみたいと思います。
 次回の次、つまり次々回からは、年代別の投資の考え方について、述べてみたいと思います。前稿でも申し上げましたが、投資を考えるうえで、ライフプランもあわせて考える必要があると筆者は思っています。引き続き、よろしくお願いいたします。