*写真はイメージです

(柳原 三佳・ノンフィクション作家)

 日本中、いや、世界中で新型コロナウイルス感染拡大のニュースが流れています。

 春の芽吹きを感じる季節に、ありとあらゆるイベントが次々と中止になって寂しい限りですが、目に見えないウイルスの感染を食い止めるには仕方がありませんね。

 つい先日、私は現役の法医学者にインタビューをして、『新型コロナウイルス 亡くなった人からも感染するのか?  法医学者が危惧する日本の脆弱な「感染症対策」』
https://news.yahoo.co.jp/byline/yanagiharamika/20200229-00165230/という記事を書きました。

 現在、肺炎の疑いで亡くなった患者のすべてにウイルス検査や解剖が行われているわけではなく、実態がつかめていないというのです。

 また、このインタビューでわかったのは、新型コロナウイルスで亡くなった方の遺体にはまだウイルスが残っている可能性があり、その場合、感染の危険性もあるという事実です。

 実際に、過去の歴史を振り返っても、感染症によって大量に亡くなった人々の遺体の処理には大変苦慮したようです。

馬車を駆り「黄熱病」の死体を運び続ける

『開成をつくった男、佐野鼎(さのかなえ)』(柳原三佳著・講談社)の中に、アメリカでは大変有名な、ある偉人のこんなエピソードが出てきます。

<ある年、フィラデルフィアで黄熱病という疫病が大流行し、多くの市民が感染して死亡した。死体は一時、山積みになるほどだった。しかし、この時、市民は恐怖とパニックに襲われ、他人を助けようとする者は誰もいなかった。

 そんな中、ジラードは、自らの意思で行動を起こした。私財を投じて郊外に避病院を作り、「恐れるな。恐怖が唯一の悪魔だ!」そう叫びながら、夜な夜な荷馬車で市街を回り、病人を、そして疫病による死体を自ら担いで搬送した。

 ジラードは自らの死を恐れることなく、ただ他人を救うため、他人の人生を生かすために行動したのだ。>

 これは、1793年、フィラデルフィアで、蚊が媒介する「黄熱病」が大流行したときの話ですが、なんともすごい人物がいるものです。