Off-JTは「座学」から「シミュレーションの場」へ
一方でOff-JTも少しずつ様変わりしつつあります。昔ながらの「座学」形式での研修は減少し、より実践に近い研修が増えています。少し前まではケーススタディやプロジェクト発表といった座学と何らかの成果物提出を組み合わせた内容が中心でした。しかし最近では、オンライン学習の進歩により、「座学」は姿を消しつつあります。「座学」のようなただ内容を聞いて理解する部分はオンライン講座による自己学習に置き換わり、集合研修はオンライン講座で学んだことを実践する場へと置き換わっているのです。
先ほどご説明したように、OJTの重要性の高まりやテクノロジーの進化により職場以外の場で学べることは少なくなりつつあります。経験重視の能力開発が重視される現代ではOff-JTはあくまでも補助ツールです。
一方でOff-JTは単なる勉強の場ではなく、業務では得られない経験を補完するシミュレーションの場へと変化しています。例えば上位の役職を、職場ではまず体験することができません。また会社の経営も、経営者にならなければ体験することができないでしょう。しかしシミュレーションを行えば、実際の業務で起こる出来事への対処法がわかるとともに、現実に近い経験を積むことができます。そのため特に管理職育成や次世代経営者候補の育成に用いられるようになってきています。
手法も、フィールドワークやシミュレーションゲームを取り入れたもの、実際の会社経営を想定したものなど、能動的に学べるものが増えています。このようにOff-JTも単なる座学ではなく、経験を補完するツールとして進化してきているのです。
「学び」はこれからの経営の中心になる
急速に環境が変化する現代では、早く学んだ人が勝ちます。例えば最近、YouTuberが増えてきましたが、安定的に活躍している方はかなり前から活動している場合が多いのではないでしょうか。
事業の世界でも、AIなどの最新テクノロジーをいち早く学んで取り入れた企業が台頭しつつあります。環境変化に応じた知識をいち早く学び、社内で共有して自社の知識や技術と結びつけることが求められています。さらに、社員に求められる能力も時々刻々と変化しています。こうした環境では「学び」が経営課題になり得ます。いかに早く能力や知識を獲得して新たな市場に事業を展開できるかが会社の成長のカギです。業務の中で学んだことをOJTで他の社員に伝え、組織的にあらたな知識を獲得する取り組みが必要です。
また、より早く学ぶためには、より早く失敗することも大切です。本番では失敗できないようなことをOff-JTによるシミュレーションの場で失敗させ、対処能力を引き上げておけば、本番での失敗確率が減少するはずです。
2020年代はテクノロジーを活用した「学び」が発展する時代であり、同時に「学び」が企業の最も重要な経営活動の一つになるでしょう。「学び」を制し、10年後の2030年代でも成長を続けているのはどの企業でしょうか。これからが楽しみです。
著者プロフィール 中野 在人 大手上場メーカーの現役人事担当者。 新卒で国内最大手CATV事業統括会社(株)ジュピターテレコムに入社後、現場経験を経て人事部にて企業理念の策定と推進に携わる。その後、大手上場中堅メーカーの企業理念推進室にて企業理念推進を経験し、人材開発のプロフェッショナルファームである(株)セルムに入社。日本を代表する大手企業のインナーブランディング支援や人材開発支援を行った。現在は某メーカーの人事担当者として日々人事の仕事に汗をかいている。 立命館大学国際関係学部卒業、中央大学ビジネススクール(MBA)修了。 個人で転職メディア「転キャリ」を運営中 http://careeruptenshoku.com/ |