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 延吉市内から中朝国境付近に戻ってきた。

 三合鎮付近の倉庫のような場所で、中朝事情に通じたあの男、そしてキムさんと落ち合った。時計は22時を回っていた。图们江の水面に、月が乗っかっている。国境付近は、この世の終わりを意味するかのように、静けさで染まっていた。

食事もとらず気合だけで戻ってきた

吉林省延辺朝鮮族自治州竜井市三合鎮

 「加藤さん、よく戻ってこれたな。さっきから君がちゃんとたどり着けるか心配していたんだ。横にいるキムさんに、『あいつは逃げるかもしれない。今夜は2人だけで行くことになるかもな』なんて漏らしていたんだ」

 男がからかうようにつぶやいてきた。筆者も相手をからかうように返した。

 「冗談もほどほどにしてくださいよ。這ってでも来ますよ。そちらこそよく僕みたいな日本人と付き合いますね。リスキーじゃないんですか? なかなか度胸が据わっていらっしゃる。心から敬意を表しますよ。大したもんだ」

 正直言うと、簡単にたどり着いたわけではない。街灯がほとんどない国境付近だ。午後に延吉市内で脱北女性への取材を終えてから、食事もしないで駆けつけた。かなり迷った。約束の時間ギリギリだった。気合だけで来た。

 マツタケのディールまではもう少し時間がある。誰もいない漆黒の道。何もない、月だけの空間。吐息だけを通わせながら、3人でとぼとぼと歩いていく。

人工衛星が緊張させた中朝国境

 キムさんが突然口を開く。無口の彼が率先して自我を主張することは決して多くはなかった。

 「北朝鮮が人工衛星を飛ばしてから中朝辺境、そして延吉情勢は益々緊張するようになった。公安当局の脱北者や国境付近の密輸行為への取り締まりは一段と厳しくなった。前回ここ三合に来た時には、軍の車が7~8台常住し、巡回していた」

 「中国側の領土だよ。北朝鮮だけじゃなくて、中国側にとっても国境マターは核心的に重要になってきているんだ。安全保障でもある。公安や軍人が一緒になって、頻繁に情報共有している。一般の住民が近づける様子ではない。ここ数年で、国境軍人の数は2倍くらいに増えた感じだ」

 男が続けて言う。

 「その通りだ。ここ数年、何もかもが厳しく管理されるようになった。俺たちの電話は北朝鮮側だけからだけじゃなく、中国側からも盗聴されているんだろうな」