日本の産業界で“人手不足”が叫ばれるようになって久しい。だが言葉だけが独り歩きし、その実態を冷静に俯瞰している人は少ないのではないだろうか。ここではさまざまなデータをもとに、日本における人手不足の現状および将来を数回に分けて整理してみたい。第1回となる、本稿では日本の就業者数、卒業者数、人口分布などの基本データと新卒/中途採用の現状を掘り下げたい。

労働者数の基本データ

「人手が足りない」と嘆いている経営者や現場マネージャーは多いだろう。では実際のところ、どの程度足りていないのか。まずは基本的なデータを見てみよう。

 総務省統計局の『労働力調査』2019年12月分(※1)によると、日本の就業者数は6737万人(前年同月比81万人増)、うち自営業主と家族専従者を除いた雇用者数は6043万人(前年同月比2万人増)で、いずれも84か月連続で増加。完全実業者数は145万人で、前年同月に比べて14万人減少している。厚生労働省の『雇用動向調査』(※2)を見ると、2019年上半期における常用労働者は5045万人で、前年同期に比べて74万人の増加。2018年には入職者(職に就いた人)767万人、離職者(職を離れた人)724万人で、年間40万人以上の入職超過だ。

 また文部科学省の『学校基本調査』(※3)によれば、2019年3月の高卒就職者数は18.6万人、大学(学部)卒就職者数は44.7万人。単純計算で年間63万人の若者が労働力として供給されていることになる。

『日本再興戦略』に基づく政府の要請で、各企業は非正規雇用労働者の正社員転換を盛んに実施した。また高年齢者雇用安定法の改正によって定年の延長や高齢者の再雇用も進んだ。2019年の大学新卒者の就職率(就職希望者に占める就職者の割合)は97.6%という高水準だ(※4)。これらが相まった成果として、就業者全体/一定期間以上の雇用契約を結ぶ常用労働者/新卒就職者数など分類や調査方法によって数字に違いはあるものの、実は「年間40~70万人程度の規模で順調に人手は供給され続けている」のである。

 ただ、このペースが永遠に続くわけではない。日本の新成人人口は1970年の246万人(第1次ベビーブーム世代/現在70歳前後)が最多で、その後いったん減少したもの持ち直し、1994年には207万人(第2次ベビーブーム世代/現在40歳代半ば)を記録。以後は着実に減少しており、2010年以降は120万人台で落ち着いているが、2025年には108万人になる見込みだ(※5)。

 つまり現在70歳前後の第1次ベビーブーム世代である“シルバー人材”の供給量は現在がほぼピークで、今後は数十万人単位で減少することが確実。と同時に若者世代の人口が現在の水準から10万人以上減り、伴って就職者数も減少していくことは自明だ。これらのことから、年間40~70万人程度の人材供給が続く現時点でも「人手不足」と言われているのに、今後はさらに厳しくなっていくと容易に予測できる。20年後、現在のミドル層は定年を延長し、否が応でも働き続けて労働者の減少分をカバーしなければならない。それが日本の現実なのである。

※1:労働力調査(総務省統計局)
https://www.stat.go.jp/data/roudou/

※2:雇用動向調査(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/9-23-1.html

※3:学校基本調査(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

※4:平成31年3月大学等卒業者の就職状況(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000205940_00002.html

※5:新成人人口(総務省統計局)
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/topics/topi1072.html