今回の大地震、津波、そして東電の福島原発の大災害は、リスク管理の重要性を我々によく認識させた。

 重要な点は、こうした巨大な地震や津波の可能性は従来知られていた点である。今回の地震はマグニチュード9と最終的に判定されたが、2004年のスマトラ沖地震は9.3であった。巨大津波の発生についても、産業技術総合研究所の活断層・地震研究センターが、869年の貞観津波など東北地方の仙台平野や石巻平野、そして福島県沿岸域の平野では約500年間隔で巨大津波が発生していることを事前に警告していた。

 それにもかかわらず、なぜ、リスクへの備えが不十分であったのか。

確率が低い事象は考慮しない方が合理的なのか?

 1つの重要な原因は、このような規模の地震・津波が来ることは数百年に1回であり、確率が小さいと認識されていたことであろう。

 滅多には起きない、確率が非常に小さい事象は考慮をしないことが、合理的な場合もある。それが合理的であるかどうかは、災害による被害の分布がどのようになっているかに依存する。

 巨大地震や津波が起きた場合、その被害が非常に大きいという特徴がある。よって、「滅多には起きない」という理由で「想定外」とすることは合理的ではない。

 地震の規模は「マグニチュード」で評価されるが、マグニチュードが1増えると地震の発生頻度はおよそ10分の1となることが知られている(2増えると100分の1)。したがって、マグニチュードが8級の地震は10年に1回程度日本で起きるとすると、マグニチュードが9級の地震は100年に1回であり、確率は大幅に小さくなる。

 しかし重要な点は、地震規模を示すマグニチュードは対数スケールであり、マグニチュードが1増えるとエネルギーは約32倍となる(2増えると32×32で1000倍にもなる)。被害は地震のエネルギーに対して比例的に大きくなると考えられるので、地震による被害(=確率×被害の程度)は、確率が低い巨大地震の被害に集中することになる。

滅多に起きないことへの対処を考えるべき場合

 大きな規模の事象は滅多に起きないが、それがインパクトの多くの部分を占めることは、事象の原因となる複数の要因が乗数的に結果に影響を及ぼす経済現象や自然現象に共通に見られる。例えば、発明の価値、油田の可採量、都市の人口規模等である。