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(篠原 信:農業研究者)

「一緒に勉強しよう」

 ある日、父から「これからは一緒に机を並べて勉強しよう」と声をかけられた。毎日1時間。中学2年生の終盤になってもなお、私はちっとも勉強していなかった。定期テストの1週間前には部活が休みになり、早く下校できたのだが、それをよいことにいとこたちとソフトボールをして遊んでいた。テスト一週間前くらい勉強するように、と言われていても、私はなぜ勉強しなければならないのかさっぱり分からなかったから、ちっとも勉強しようとしなかった。

 しぶしぶ、父の横で机に座るようになった。父はその頃、資格を取るための勉強をしていた。私は勉強したくないものだから、引き出しから教科書を出すのもゆっくりにしたり、ノートをペラペラめくるだけだったり。ただ父は、勉強しろとは言わなかった。イスを前後にギコギコ鳴らすと、「静かにしなさい」と注意はされたけれど。自分の勉強に集中するためといった感じ。

 その時私は反抗期真最中。教科書の真ん中にマンガを挟んでおいて、読んだりしていた。たぶんバレていたと思う。けれど父は注意しない。黙々と資格の勉強。

しぶしぶから快感へ

 なんだか、コソコソとサボっている自分が恥ずかしくなってきた。しゃーない、宿題くらいするか、イヤだけど・・・。宿題をしようとしても、当時流行っていたチェッカーズの歌が頭の中でこだまする。好きな女の子のことを思い出す。全然集中できない。

 ふと横を見ると、集中している父がいる。何も言わず、脇目も振らず、勉強している。なんだか、ソワソワ落ち着かない自分が恥ずかしくて、また宿題を一問。でもまたチェッカーズの歌が頭に鳴り響く。そんな落ち着かない様子の私を尻目に、父は黙々と集中して勉強し続けた。