小選挙区制でいうと、小沢とほぼ同じ考えを持っていた大物政治家がいる。岸信介だ。岸は意外にも、戦後を代表する小選挙区制導入論者である。小沢と岸はリンクしにくいが、驚くほど考え方が似ている。原彬久編『岸信介証言録』(中公文庫)から引用したい。80~82年にかけて原が行ったインタビューである。
「中選挙区よりも小選挙区が優れている最大の理由は、野党を強くするための小選挙区であるということだ。小選挙区は野党を強くしますよ。いまの中選挙区では小党分立のおそれが非常にあるということです。日本の現状からすれば、社会党もいまのままでは天下を取ることは難しい。社会党の天下は、見当がつかんですよ。小選挙区にすれば確かに、以後2回ないし3回ぐらいの選挙では、自民党が圧倒的な勝利を得るでしょう。しかしね、徐々に社会党は力を得てきますよ」
「社会党は全選挙区に一人ずつ立てるのは最初は無理だ。ところが、選挙ごとに候補者は増えますよ。社会党からどういう人間が立候補するかというと、自民党で公認されない連中がそこに流れて行ききますよ。公認から漏れた人たちが野党へ行くわけだ。そうすると、社会党もその本質が変わるんです。労働組合の代表者ばかりということはなくなる。そうすると二大政党というものが本当にできあがって、平和的、民主的に政権の授受が行われるわけだ」
「議会制民主政治を完成するために小選挙区制が生まれ、二大政党制が実現するというのが一番だ。そして、自民党内の派閥解消にも役立つんですよ」
小沢の持論とほぼ一緒である。さらに、小沢が重視する「数の論理」についても、岸はこう言っている。
「民主政治においてはね(中略)、つまり数ですよ。それがなければ結果は出てこない」
「戦前においては、相当の数をもってしても、いざという場合に陛下のご聖断で決まった。戦後は数が重要だ」(前掲書)
「政党の力」を知り抜いた男
政治学者の姜尚中は「岸はいつも、意外なのですが、ボトムから政治力を強化してゆくことを考えていた。二大政党制にして国民の政治力の結集を集中化させ、できる限り政争という文脈がないようにしたい(中略)。そのことで官僚制支配を牽制する。ちなみに小沢はそうした政治の仕組みをよく知っているんじゃないかな」との見方を示している(『大澤真幸THINKING「0」第2号』、左右社)。
おそらく、小沢はこれからも、与野党いずれの立場になっても、政党側で力を保持して政局、政策を動かそうとするだろう。日本政治の仕組み上、政党に権力が集中するという点を見抜いているからだ。
まさに小沢は、政党政治の申し子なのである。
(了)