パート・アルバイトの定着率向上

 人手不足の悩みから解放されるためには、先述のような採用方法の工夫はもちろんのこと、「早期離職を減らす」対策が最重要である。

 採用したばかりの新人は、仕事を覚えるまで誰かが指導する必要があるため、職場全体の作業効率を一時的に低下させるが、それは今後の企業の成長のためにも必要な時間である。将来的なメリットのために教育に時間を割いて育成してもすぐに辞められてしまっては、教育にかかったコストすら回収できない。

 また、早期離職者増加は、シフトの管理の大変さやスタッフのモチベーション低下、新たな求人活動によるコスト増なども生み、その影響は大きい。

 では、新人の離職を招きやすい不満要因には、何があるのだろうか。

 各職場で共通して真っ先に出てくるのが、「面接時の説明と仕事内容や量が違う」という点である。忙しいことや厳しいことが原因で辞めているというよりも、働き始める前に抱いていたイメージと現実とのギャップの大きさが、早期離職の要因となっている。

 求職者は自分なりに情報収集をしたうえで、新しい職場に対してなんらかのイメージをもっているものだ。雇用者側は面接時に相手が抱いているイメージを確認し、過剰な期待をしていないか、必要以上に不安を抱えていないかといった採用前に確かめておくことが非常に大切である。

 気をつけるべきことは、とにかく人手を確保したいがために良い点ばかりを告げてしまうことである。もちろんマイナス面ばかりを伝えていては採れる人材も得られないが、現実に見合った内容を正確に伝えなくてはならない。

 応募者のモチベーションが上がった面接の特徴としては、「仕事のやりがい・魅力が分かった」、「スタッフの対応が丁寧だった」、「具体的な仕事の内容が理解できた」などがあげられる。金銭面以外にも、自らの成長など得られるものがあると伝わると、定着率は向上する。

 また、新人が定着する職場づくりに必要な要素としてあげられるのが、「新人を放置しないこと」である。手の空いた人が教える形式ではなく教育担当者をきちんと配置することで、新人の定着率は上がる。店長自らが教育を担当すると他のスタッフが育成を店長任せになりがちになるため、店長以外の担当者を選任すると効果的だ。ただし、ベテランスタッフは物理的に忙しく、新人につきっきりで指導することは難しいという状況にも配慮が必要である。

 さらに、「業務外のコミュニケーションの活発さ」も早期離職の低減に影響する。職場全体でのミーティングをおこなってスタッフ全員で情報共有できる場を設けることや、休憩時にフランクに会話ができる環境づくりに努めることも非常に有効である。

 定着率が高い職場ほど、マニュアルやツールを整備し、十分に活用できており、研修・教育が充実している傾向にある。覚えなければならない事柄が多い新人の段階は、こうした学習環境の整備も離職防止対策として効果的だ。

 人手不足に直面してから慌てて採用したが育成せずに放置したためすぐ辞められてしまう、といった負のスパイラルに陥らないよう、まずは今ある職場環境の見直しと改善から始めること必須の対策だろう。

田中亜矢子 社会保険労務士
人を育てる人、を育てる。
採用定着コンサルティングOFFICE「サン&ムーン」 代表

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HRプロ編集部

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