ウーバーイーツの配達員(写真:ロイター/アフロ)

(尾藤 克之:コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員)

 最近、街中で大きなバッグを背負った人を見かけます。飲食店の宅配代行サービスとして人気を集めている「ウーバーイーツ」。その配達員らで作る労働組合が、報酬を引き下げられたなどとして団体交渉を申し入れました。会社側は「配達員は労働者にはあたらない」として、団体交渉に応じない構えです。

 12月5日の会見には連合会長も同席しました。「団交拒否というのは本来ありえない話ではないかと」(連合・神津里季生氏)。ウーバーイーツユニオンは現時点では労働委員会に認定されていませんが、その動向には注目が集まっています。もしあなたが同じように、会社から報酬減額などを一方的に通知された場合、どのように対峙すればいいのでしょうか。

実は会社と闘うことは簡単ではない

「報酬の一方的な引き下げ」。たしかに悔しいのはわかります。会社に仕返しをしたい、上司に一泡吹かせたいという気持ちもわかります。しかし、ドラマのようにはいきません。まず会社や上司は人事権を行使できます。目をつけられれば評価がどうなるかは言うまでもありません。

 なかには、泣き寝入りをしたくないからと労働基準監督署(労基署)に駆け込む人がいます。厚労省「平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、相談件数は11年連続で100万件を超えていることがわかります。しかし、労基署が問題を解決してくれるわけではありません。つまり労働者の駆け込み寺ではありません。

 もし、労基署に「報酬の一方的な引き下げ」を相談したとしましょう。あなたは証拠としてタイムカードや出勤簿などを持参しています。監督官に事情を説明したら、「まずは自分で会社に相談してください」と言われるはずです。会社の違法性が高い場合は、次のようになるでしょう。「会社に連絡しますが、あなたの名前を話しても構いませんよね?」。

 労基署に通報するというのは「労基法に違反しています」とタレ込むことと同じです。「名前は伏せてください」は通じません。次に、あなたが通報したことが会社に知られたとしましょう。労基署への申告を理由に、不利益を与えることはできませんが、そのまま平穏に済むとは思わないほうがいいでしょう。会社にとって、あなたは裏切り者だからです。

労働問題の解決には時間が必要とされる

 労働者にとって生活の糧となる賃金は簡単には下げられません。しかし、異動や昇進昇格・降格は会社の裁量です。普通に考えれば、重要なポスト、重要な仕事からは外されることは容易に想定できます。労組を通じて団体交渉をしても、労働委員会に上訴しても、時間が経過するなかで疲弊し居場所が無くなっていきます。