最初はコストより「楽しく」「継続する」こと

―そのお話を実際の金融商品に当てはめるなら、いきなり株式の個別銘柄や外国債券を自分で選んだりするのではなく、最初は投資信託やETFだけで運用して、ある程度のコストを支払ったとしても、結果として預金金利より高い利益が得られればいい、という考え方になるでしょうか。

谷崎 そうです。投資の本や雑誌を読むとよく「あの商品はコストが高いから買うべきではない」ということが書いてありますけど、それで投資に足踏みする人をたくさん見てきました。そんなことを気にしていたら資産運用は始められません。

 例えば料理は生活するうえで必要なことで、工夫が好きな人なら向上心もあって、「楽しいから料理する」という思いが一番先に来ます。料理が好きではない人も最低限のことはするでしょうし、家族や友人の役に立とうとある程度の工夫はします。では、料理上手な人は最初から上手に無駄なく料理ができていたのでしょうか? 投資に限らず、無駄がないことを目指しながらも、無駄づかいを経て少しずつ賢く、効率がよくなっていく人がほとんどではないでしょうか。

 また、塩ひとつにしても、いろんな塩を試して、その人にとっての安心、安全、おいしいが構築されていきます。同様に投資信託の運用手数料についても、何と比較するか、コストが見合っているかなどは、投資を始めたあと、継続しながら自分で確認していくことで、自分の投資スタイルが構築されていくのではないでしょうか。

 保険と比べたら投資のコストの方が低いかもしれないし、長い目で見て手数料が引かれたあとの利益が預金より高い、もしくは高くなるだろうと自分自身が思えればそれでいいですし、最初はコストがかかっても、投資を始めて良かったと思う人が増えることにつながれば、最初はそれでいいと思うんですよ。そこからさらに利益を増やしたいと思ったときに、勉強をして道具の使い方を覚えていけばいいんです。

―投資信託はすぐに買えますし、その中身は専門家が運用しているから、買う人は深く勉強しなくてもいいですからね。だけど自分で個別の株や債券や不動産に投資しようと思ったら、当たれば利益は大きいけれど、なにせ「個別」だから、投資先が破たんしたら大損してしまうので、きちんと勉強しないと成功するのは難しい。「初心者マーク」の人はそんな難しい判断をしなくても、簡単な道具を使えば、コストは多少かかるかもしれないけれど、誰でも投資を始められるんだということは広く知られてほしいですね。

普段は金沢でお仕事をしている谷崎さんは、全国の金融機関の販売員を対象にセミナーや講演会などを行っており、取材日の前日には東京で、翌日には京都でセミナーがありました。

とにかく投資を始めてみることが大事

―これから資産運用を始めようとばくぜんと考えている方に向けて、どのようなことから始めればいいか、アドバイスをいただけますか。

谷崎 4点あります。1点目は、自分の生涯の収支がどのくらいかを把握することです。そうすることで今の家計の状況と、これから自分の生活に何が必要かがわかります。

 2点目は、信頼できるアドバイザーを探すこと。

 3点目が、資産運用のセミナーに参加することです。自分の頭だけで考えるより、他人の考え方を取り入れた方が幅が広がりますから。

 そして4点目が、少額でいいからとにかく投資を始めてみることです。自己流でいいので、まずは自分でやってみる。そうすればセミナーで教わったことがより理解できるようになるし、アドバイザーに相談したときに、どこを改善したらいいかわかるようになります。

―最初に包丁の話をしましたが、料理と似ているかもしれませんね。一度自分で作ってみてから、あらためて誰かから教わると身に付きやすくなるのは。

谷崎 レシピをしっかり読んでから作る方が安心する人と、私みたいに自分の好きなように作りたい人がいて、それは性格の違いと思うんですけど、たとえば調味料を入れる順番って、砂糖を先に入れて、醤油はそのあとですよね。でもレシピには入れる順番は書いてあっても、なぜその順番なのかまではわかりません。

 実際は浸透圧の関係で、塩より砂糖を先に入れないと具材に味が染みこまないという特徴を利用しているのですが、目的はおいしい料理を作ることです。そのために、先にそれらを勉強する人もいますし、実践しながら人に教えてもらい、そのあとで勉強して上達する人もいます。一度自分で作ってうまくいかなかった経験があると、次からは順番を間違えないようになり、そうやって経験を重ねていくと、レシピを見なくても調味料を入れる順番がだんだんわかるようになります。

 投資も同じで、最初から勉強しようと思ってもなかなか身に付かないものだから、まずは始めてみることが大切だと思います。