預貯金だけではお金が増えなくなって久しい昨今、資産運用が大切だということはなんとなくわかっていても、いざ始めようと思うとやっぱり不安だし、なかなか最初の一歩が踏み出せない。それは「投資は難しい」「投資は怖い」という先入観のせいかもしれません。これから資産運用を始めようと考えている方に向けた準備と心構えについて、ファイナンシャルプランナーとして活躍するライフワークサポートの谷崎由美さんにお話を聞きました。(聞き手・文=MonJa編集長)

「不安」が動機だと楽しくない

―もうずいぶん前から、国や金融庁、証券会社や銀行などいろいろな人たちが「資産運用が必要だ」「貯蓄から投資へ」と言って、世間一般の方々に向けて投資をするように促しています。預金だけでお金を増やせないことは多くの方が実感しているけれど、それでも資産運用がなかなか広まっていかないのは、どのような理由があると思われますか。

谷崎由美さん
ライフワークサポート
代表取締役
石川県金沢市で2006年から、ファイナンシャルプランナーとして30代の子育てファミリー層を中心に年会費制のマネー相談、ライフプラン二ングサービスを提供している。

谷崎 「失敗したくない」という気持ちが強いんでしょうね。人が投資の話をするのは、たいていは大損したときの話です。成功した話はあまり聞かないし、小さな失敗の話なんて誰もしません。事例としては多くなくても、失敗した人の損失額の大きさを聞いたら、どうしても警戒してしまいますよね。

 それと、金融機関でも雑誌などのメディアでも、資産運用が必要だと説明するときに「老後の生活が不安だから投資しましょう」という言い方がよくなされますけど、やっぱり不安が動機だと長続きしにくいと思います。楽しくないから。

―我々も仕事で「人生100年時代」という言葉を使いながら、雑誌などの広告や記事で資産運用について書くことは多いですが、どうしても「少子化で年金が減る」とか、そういうつらい現実に触れざるをえないので、前向きな話にはなりにくいですね。

谷崎 私はいつも、投資は「生活経営」を円滑にするための道具の一部だとお伝えしています。お客さまがどんな生活をしたいのか、そのために家計はどうあるべきか、そしてどのような道具を使っていくかを考えていただくようなファイナンシャルプランニングを心掛けています。実際、私の顧客は全員「投資」という道具を使って「生活経営」を楽しんでいます。
不安だから仕方なく始める資産運用ではなく、よりよい未来のために自発的に取り組む資産運用であれば、もっと多くの人たちに広まるんじゃないですかね。

「勉強しなければいけない」という思い込み

谷崎 投資が広まらないもうひとつの理由は、「資産運用はお金の勉強をしなければならない」と思っている人が多いことだと思っています。これが生活者が投資を身近に感じられず、遠のいてしまう原因のひとつではないかと考えています。

 釣りを始める人は楽しいから始めます。その後に道具選び、安全な場所選び。危険な場所に入って釣っても自己責任。それと同じで、投資を始めるのに最初から高級な道具はいらないし、道具の使い方もわからなくていい、ということをぜひ皆さまにお伝えしたいです。

―「投資は難しい」という固定観念は根強いようですね。あるいは、株やFX(為替証拠金取引)で大損をした人の例を引き合いに出して、投資は危険だから手を出してはいけないと考えている人も多いと思います。

谷崎 短期間で大勝ちしたり大損したりするようなやり方は「投機」であって、「生活経営者」になるために家計を見直したり老後を楽しく過ごしたりするための「投資」とは別物だということをまず知っていただきたいですね。そのうえで、投資を料理にたとえてみるとわかりやすいと思います。

 たとえば食材を切るとき、用途に合わせた包丁があります。出刃包丁や刺身包丁、フルーツナイフなど。でも最初は、万能包丁を使うと思うんですよ。これ1本あればたいていのものは切れるけれど、料理を通じていろいろなものを切っていくうちに、魚の骨を切るには出刃包丁が便利だとか、パンを切るには専用のナイフがあった方がいいとか、そういうことがだんだんわかってきて、次のステップとして目的に合った道具を選ぶようになっていくわけです。

 それが投資の場合は、本に書いてあったから、人に言われたからと、最初から包丁一式をそろえたり、調味料を買いそろえたりしてしまうようなことが起きてしまう。その結果、手入れの仕方もわからず、使いものにならない道具になる。そもそも本来の投資の目的は「どんな料理を作るか」=「いつ頃までにいくら必要か」であって、「どの道具を使って料理を作るか」=「どの投資商品を買うか」ではないわけです。道具ばかりに目を向けても、使いこなせずに放置してしまうようなこともあります。