明確なライフプランがなくてもいい

谷崎 あと資産運用でよく言われるのが「ライフプランを立てましょう」ということで、それ自体は確かに正しいですし、あるに越したことはありません。

 けれど、多くの初心者にとっては「投資を始めるには目標を設定しなければいけないのか」という先入観が重荷になっている気がしています。そう考えると、投資を始めるには、目的を決めない方がいいこともあるのではないかと思っています。

 たとえば初めてカメラを手にした初心者が、何年後にはこういう写真を撮りたいという目標を立てて、それを励みにして勉強したり練習したりするのもいいと思いますけど、私の場合は「写真を撮るのが楽しいから」というのが動機です。毎日撮っているだけでも、写真の腕前ってある程度までは自然に上達しますよね。こういう光が入るとこういう写真になる。そんな経験を積み重ねて、いつの間にかうまくなっていくものですし、次はこんな場所に行ってみよう、こんなカメラを使ってみよう、と目的が後から出てくる場合もあります。

 投資も最初はそれでいいと思っています。目標設定の前に、おもしろそうだからあれを買ってみようとか、金融機関の人に話を聞いてみようとか、それから自分の頭で考えてみる、そういう経験を重ねていったら投資の精度が増して、運用成績が良くなるというのがひとつの理想ですよね。

―確かに資産運用の入り口が「ライフプラン」だけだとおもしろくない感じがします。

谷崎 特に独身の人は先々のライフイベントが見えないですし、さしあたって大きなお金が必要となる場面もないですから、計画を立てにくいですよね。

 それよりも、最初は「いつかお金が増えたらうれしい」くらいの軽い気持ちで始めてみればいいと思います。やがてライフプランを立てられるような状況になったときに、そこであらためて資産運用のことを真剣に考えればいいわけですから。

 投資は長い時間をかけてお金を育てるものです。ライフプランを作る前に、まずは家計の体力を測るバランスシートの作成をおすすめします。今、どれくらいのお金や不動産、株式などの資産を持っていて、どのくらいの負債を抱えているのか、そこを再確認するところから始めてみます。
体力がないことには、長い投資の旅は続けられません。家計の体力がない人は、投資の前にまずは体力、つまり投資できるお金を作るところから始めるのをおすすめしたいと思います。