丁寧な仕事設計とコミュニケーションが重要
こうした現状を打破するためには、若手の特性に合致し、かつ彼らの経験不足を補う仕事を作り出し、やってもらうことが肝心だ。今の若手は、前述の通り困難克服力に欠ける反面、自己実現欲求や正解を探す能力が高く、社会貢献・顧客への貢献を求める性質も持つと的場氏はいう。その仕事が「会社のため」ではなく「自分の成長のため、お客様への貢献のため」だと納得すると動くようになるそうだ。
ならば、若手にとってその仕事が「難しいと感じる課題をやりきる経験」や「このお客様の役に立ちたいと思える機会」になるかどうかに留意して、与える仕事を設計すればいい、ということになる。もちろん、いきなり多くを任せるのは危険。成長段階に応じた適度なサイズ感と重圧、そして頑張れば成果が出る=成功体験を味わえる内容であることが大切だ。
もうひとつ的場氏が強調するのは、コミュニケーションギャップ解消の重要性だ。たとえば飛び込み営業の数が足りず売上が伸び悩んでいる若手に「数字を上げるためにもっと多くのお客様を訪問しろ!」といっても、「何件行っても断られるだけ」と諦めてしまっている若手にはまったく響かない。
実は的場氏自身も求人広告の飛び込み営業で「どうせ若い人は来ない」と断られ続けた経験を持つ。が、その言葉の裏に「若い人材が欲しい」という本音があることに気づき、新たな提案へとつながったという。そうしたエピソードを若手に共有し、数多く訪問することの意義を説明すれば、若手は動く。結果(数字)や行動を見せるだけではなく、なぜそうなってしまっているのか、なぜそうするのかという行動の背景や“ものの見方”に踏み込んではじめて、コミュニケーション、アドバイス、指導は成立する、というわけである。
これはビジネス全般、人間社会すべてに通ずるソリューションだ
的場氏の話から、
(1)他者への理解(世代によって経験や価値観は異なるという認識)
(2)個別に最適なアプローチ(若手の特性に合わせた動機づけと仕事設計)
(3)ステップ・バイ・ステップの進行(段階的な成長の促し)
(4)目に見える事象の背景まで意識すること(結果や行動の根源にあるマインドに踏み込むこと)
が、現代の若手育成には不可欠であるとまとめられる。だがこれらは、若手育成の話に限らず、ビジネス全般における基本的ソリューションといえる諸要素だろう。
的場氏によると、今回の著書は若手営業を教育する側の先輩・上司向けに著したとのことだが、それだけにとどまらず、周囲との関係や仕事の進め方に悩むすべてのビジネスマンにとってバイブルとなりうる書籍かもしれない。