そうエロスはエンタメ。108人もの女性を試そうとする五郎の目の前に現れる女性たちは実にバラエティが豊かだ。出身地、体形、国籍もいろいろ。なかには元男性だった方もいれば、SもMもあり。そして出会い系ならぬ出会い頭系というハプニング要素のある露出的展開。3Pどころか男女50人が一緒に入り乱れるセッション・・・。五郎は何もかも試し尽くす。

松尾スズキ(左)と堀田真由 ⓒ2019「108~海馬五郎の復讐と冒険~」製作委員会

「毎度お騒がせします」以来のエロス

 愛していた妻の裏切りを忘れるための行為。だが、やればやるほど、妻の姿が頭をよぎる。美しかった妻のあられもない姿を思い出しては108人を相手にしようとする五郎。問題なのはその「あられもない姿」を見せているのが中山美穂だというところにある。

 アイドルから本格派女優へと転身というパターンはよく聞くが、なんてったって元アイドル。ファンの持つイメージを損なわないためなのか、どんな難役に挑んだとしてもあまり艶めかしい場面を提供したりしないものだ。その点、中山美穂は一歩、先を行く。五郎の妄想のなかで悶えまくる姿の衝撃度。若い女性たちがどんなに束になってもかなわないほど、彼女は美しく、そして裸の女性が群衆になろうとも彼女の艶っぽさには手が届かない。

 中山美穂がこんなにエロスに近づいたのは「毎度おさわがせします」以来ではないだろうか。しかも、自ら出演を希望したというから驚き。ヨーロッパ出身の女優たちは芸術や表現のためなら脱ぐことを厭わないが、そういう開けた文化で暮らしている賜物なのだろうか。ここでは日本特有の脱がないからこそいやらしさが増す文化をみごと融合させ、新境地を切り開いている。アイドル時代もパリ在住でも何の憧れも抱かなかったが、この作品で中山美穂を初めてかっこいいと思った。

 誰もやろうとしないことをやってのける鬼才の世界に突如、舞い降りたヴィーナス、中山美穂。エロスと笑い、エンタメと芸術、愛と不条理でぱんぱんに膨らんだ妄想を映像化した松尾自身の相変わらずのアヴァンギャルドさにはもちろん痛く感心したのだが、今回に限っては中山美穂の方が一枚、上手だったようだ。