SもMも、大乱交までも試し尽くす五郎

 大量な連載を抱える五郎は常に締め切りに追われている。1本の原稿料はそう高くなく、彼が書いても書いても妻のブランド物にお金は消えていく。それでも愛する妻のため、彼は書き続けてきた。

 松尾自身、さまざまな雑誌にコラムを連載している超多忙な脚本家でもあり、さらに美しい元夫人との離婚歴も広く知られていることから、荒唐無稽なストーリーにも関わらず、この作品を「実体験ではないのか」という人もいるほど、五郎の姿が松尾自身に重なる。確かに、妻と「巨乳のタレントと浮気をした、しない」で喧嘩する場面があるのだが、そんな松尾と噂になった当人である酒井若菜まで出演しており、虚実の入り混じった展開には自虐ネタが満載である。

あずさ役の土居志央梨 ⓒ2019「108~海馬五郎の復讐と冒険~」製作委員会

 松尾といえば、大人計画の主宰者であり、9月にBunkamuraシアターコクーンの芸術監督就任が発表されたばかり。大人計画は現在、放送中の大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」を手掛けている宮藤官九郎、同じく「いだてん」に出演している阿部サダヲや荒川良々、ミュージシャンでもある星野源も所属している大人気集団。松尾自身も「いだてん」に名人落語家・橘家円喬役で出演を果たし、「松尾さんも円熟味を増して、随分、渋い役をやるようになったんだなぁ」と感慨深く思っていた矢先のこの映画である。

 もともとエロスに垣根のない人だった。02年、松尾が作・演出を務めた草月ホールでの舞台『業音』で荻野目慶子が全裸で登場した衝撃をいまだに忘れない。10年の舞台『裏切りの街』では松尾がほぼ裸で共演の秋山奈津子と激しいベッドシーンを展開。目の前で観せられた観客たちは「ここは本当にパルコ劇場なのかしら」と呆然としていた。松尾と秋山はこれまで何度も共演している間柄だが、本作ではいまだかつてない混然一体化した絡みを見せていて面白い。

松尾スズキ(左)と秋山菜津子 ⓒ2019「108~海馬五郎の復讐と冒険~」製作委員会