北極海を航行する砕氷船

プロローグ
米国、グリーンランド購入希望

「ノルウェーは秘密潜水艦基地をロシアに売った。それもイーベイ(eBay)のようなネットオークション主体のオンライン・マーケットプレイスで。本当のことだ」

「欧州開戦」(マーク・グリーニー著 新潮文庫 2018年刊)冒頭の一節です。

 米D.トランプ大統領(73歳)は2019年8月18日、デンマーク自治領グリーンランド購入構想を発表。その直後デンマーク首相が一笑に付したため、9月初旬のデンマーク訪問を中止しました。

 トランプ大統領の意図は、温暖化により北洋航路の重要性が増すことに鑑み、同島に対する地下資源開発権と軍事戦略上の橋頭保確保および中国の進出阻止と筆者は推測します。

 この意味では、今回はあまりに唐突な発言ではありましたが、米国の「グリーンランド購入構想」自体は正しい方向性を示しており、軍事戦略としては至極真っ当な認識だと筆者は考えます。

 グリーンランドは日本の6倍の面積をもつ世界最大の島。雪と氷に閉ざされた島ですが、米軍事基地もある軍事上重要な島であり、今後同島は地下資源・軍事戦略・北洋航路要衝の地になるでしょう。

領土は不動産

 領土は不動産ですから、売買の対象になります。不謹慎な考え方と思われるかもしれませんが、歴史を顧みれば、領土売買の実例は幾つもあります。

 帝政ロシアのアレクサンドル2世は1867年、クリミア戦争(1853~1856年)の賠償金支払いにより国庫財政が困窮したため、アラスカを720万ドルで米国に売却しました。

 売買交渉の米側当事者W.スワード米国務長官は「氷山買いの銭失い」と揶揄されましたが、購入後に金(Gold)が発見され、更に原油や天然ガスも発見され、雪と氷の世界が宝の山になりました。

 帝政ロシアは弱い立場で交渉に臨んだため、広い土地を二束三文で売却せざるを得ませんでした。