【第3部】パネルディスカッション:「障がい者の戦力化事例」
第三部は中島氏進行のもと、実際にテレワークによる障がい者雇用を導入しているNULアクセシビリティ株式会社 代表取締役社長 寺嶋文之氏と、株式会社ウィザス 統括支援本部人事部次長 藤原秀永氏、そして株式会社ウィザスのテレワークをサポートしたD&I 杉本氏によるパネルディスカッションが行われた。実例とともに、いかにして戦力としての障がい者雇用を実現したかに迫っている。
中島 テレワーク運用にあたり、苦労した点を教えてください。
藤原 勤怠管理に苦労していますね。管理システムを使っていないので出退勤はメールで送ってもらっています。深夜勤務の希望もありましたが、やはり勤怠管理の問題で難しいです。
寺嶋 現在は徳島県在住の5名を雇用しています。業務用PCは弊社より貸出し、ネットワークはVPNを使用してセキュリティを担保しています。勝手に時間外作業を行わないように、PCのON/OFFを管理しています。
中島 残業が発生することもあるのですか。
寺嶋 当社では原則として残業は認めていません。チームで運用している仕事ですので、遅延が発生した場合は、チームメンバーでカバーしていきます。
藤原 当社でもあまりやっていただいていません。時間管理マトリックスにおいて、「重要度」は高いが「緊急度」は低い業務をお願いしていることも理由です。
中島 テレワークの訓練などはしましたか。
寺嶋 訓練はしなかったので、はじめは手探り状態でした。社員は技術者なので、彼らにどのくらい生産性を求められるのかの見極めから始めました。納期を設定し、品質が悪い場合はそれを認識してもらうことで、技術者としてのやる気が芽生えるよう、動機づけをしました。
藤原 トレーニングなどは特にしていませんが、D&Iさんにアドバイスをもらい、弊社とD&Iさん双方から伝えるべきことは伝えています。どうしても生産性の上がらない方もいましたが、各人に合った業務を見極めて、その都度変えています。
中島 成果の評価と報酬への反映についてはどうされていますか?
寺嶋 金銭的な見返りではなく、名刺の肩書きをランクアップして渡しています。我々は評価していますよということを明確にして、モチベーションアップするように心がけています。
藤原 一般社員と同じ評価を取り入れているわけではないのですが、継続雇用ですので、毎年少しずつ昇給しています。
中島 障がい者テレワーカーのキャリア構築をどうお考えでしょうか。
寺嶋 基本的に会社勤めが初めての方ばかりなので、皆さんキャリアについて明確なビジョンを持っていないケースが多いです。ただ、当社で勤めたことが将来の人生においてプラスになってもらえればと思います。
藤原 弊社では一般社員も含め50歳のタイミングでセミナーを行っています。これからのキャリアを考え、定年後はどうするのかなど、キャリアを考えるきっかけ作りを支援しています。その後の判断は各自に委ねています。
中島 テレワークをするにあたって、どういう条件を整える必要がありますか。
杉本 テレワークで仕事をすることがどういうことなのか、始める前は彼ら自身も理解しきれていないことが多いのが現状です。まずはスタートしてみて、その状況によって企業と障がい者の間でルールを決めることがお勧めです。
寺嶋 各人の特性を考慮する必要から、勤務時間への配慮や特別有給休暇、コアタイムの無いスーパーフレックス制度などを整えました。
藤原 最初はルールがなくて手探り状態だったのですが、D&Iさんにサポートいただいたことで、大変助かりました。
中島 具体的に何かトラブルがあったのですか。
藤原 なかなか業務をスムーズに進められない方がいました。雇用を継続していいものか悩んでいたのですが、業務をその方に合う内容に見直して、きちんと仕事をこなしてもらえるようになりました。
寺嶋 未知の業務の場合、説明してもなかなか理解が進まないこともあります。ここでやり過ぎると結果的にいじめていることにならないか、かえって苦痛を与えてしまっているのではないかというジレンマはあります。そこは本人と話すことで指導のラインを見極めています。
中島 皆さんは働き方の一つとしてのテレワークの可能性をどう見ていますか。
藤原 可能性は大いにあるのではないでしょうか。今後は全国で展開している事業をテレワークでつなげることができればと考えています。例えば、通信制高校の特別講師がテレワークで授業できたら面白いですね。
寺嶋 AIなどテクノロジーの進歩が著しい中で、活用の可能性は無限大にあるのではないかと思います。
中島 最後にテレワークを検討している企業にメッセージをお願いします。
寺嶋 万全の準備をしてテレワークをはじめても、やってみなければわからないことが多々出てきます。万全の準備に時間を費やすより、まずは始めてみて改善をされる方がよいと思います。
藤原 自社だけでやるには限界があります。企業や自治体などのネットワークを駆使すれば効果は大きいですし、時間も短縮できます。
杉本 今こそ第一歩を踏み出すときです。そして、この人を採用したい、この人と働きたいと思う方を採用してください。テレワークは働く場所が違うだけなのですから。
登壇者プロフィール
慶應義塾大学 商学部教授
中島隆信 氏
NULアクセシビリティ株式会社 代表取締役社長
寺嶋文之 氏
株式会社ウィザス 統括支援本部 人事部 次長
藤原秀永 氏
株式会社D&I 代表取締役
杉本大祐 氏