事故が起こったのは2018年9月。運送会社に勤務するドライバーの男(51=事故当時。判決時は52)が、関越自動車道をワゴン車で走行中、井口百合子さん(当時39)のバイクに追突。百合子さんはこの車と後続車に相次いで轢過され、即死でした。

高速道路上の事故現場からレッカー移動されてきた百合子さんのバイク(遺族提供)

 事故直後の検証では「対向車線に気を取られて脇見をした」と供述していた加害者。ところがその内容は虚偽で、実際には時速100キロで走行しながらLINEに配信されるホラー漫画をスマートフォンで読み、衝突に至る16秒前(衝突地点の約444メートル手前)からはまったく前を見ていなかったことが明らかになっています。

 実は、事故発生までの一部始終は、自身の車のドライブレコーダーに記録されていました。夜だったため、スマホを操作する様子がフロントガラスに鏡のようにはっきりと映り込んでいたのです。

「危険で悪質」な運転で死亡事故でも懲役3年

 判決文には、懲役3年という量刑の理由が、次のように厳しい筆致で記されていました。 

≪被告人の前方不注視義務違反の程度は著しく重く、その運転の態様は重大な事故に直結する可能性の高い非常に危険なものであって、本件は一瞬の不注意による事故とは一線を画する、特に危険で悪質な運転による事故であったと評価すべきである≫

 裁判官をして「特に危険で悪質」とまで言わせた死亡事故・・・、それでもこの事故は「危険運転致死傷罪」に当たらず、懲役3年が妥当と判断されたことになります。

 事故当日、妻の百合子さんと共に2台のバイクを連ねてツーリング中だった夫の井口貴之さん(47)は、判決確定後、複雑な胸の内をこう語りました。

「妻・百合子は一生帰って来ないのに、加害者はたった3年で社会に戻れると思うと、とても刑が軽く感じられます。同種の事案を比較したとき、今回の判決の3年というのは最も重い事例だということですが、法の限界を感じてなりません。 悪質運転に対しては、もっと厳しい判決がなされるよう、法改正が必要だと強く感じています」

ワゴン車に追突され死亡した井口百合子さん(遺族提供)