前回(「農業は大規模化でコストダウンできるのか?」)、和牛を欧米でどのように売るかというマーケティングの話を書くと予告しておりましたが、前提を述べるのに予想外の分量が必要になりました。今回と次回の2回に分けての掲載となりますので、ご容赦下さい。

 「霜降り牛肉を食べると太る」「欧米では霜降りは好まれていない」「霜降り牛肉は健康に良くない。赤身の肉の方がいい」・・・。日本の牛肉市場について語る人たちが、よくこういった物言いをされます。その中には、食分野の評論家も多く含まれます。

 にもかかわらず、依然として日本では霜降り牛肉が珍重されているわけですが、実は霜降り牛肉の美味さを発見したのは日本人ではなく、英国人なのです。

 なぜなのか、少し歴史をさかのぼってみましょう。

霜降りの美味さを発見したのは英国人だった

 牛は古来、重要な動物とされており、ヨーロッパでも耕作など使役に使われるのが普通でした。当然、肉も食べられていました。

 しかし、ヨーロッパはもともと土地が痩せています。中世は「三圃制」(2年間穀物を作り1年休ませて放牧地にする輪作体系。放牧時に牛の糞を肥料にした)を取らなければ生産力を維持できなかったような土地柄です。

 牛を増やそうにも牧草地は少なく、なかなか増やすことができませんでした。そのため牛肉の消費量は低いままで、王侯貴族以外はなかなか口にできなかったようです。

 欧州で一番牛肉が好きだったのは、英国人でした。17世紀、植民地開拓によって豊かになった英国では牛肉の消費量が増え、産業革命前には世界一の牛肉大国になっていました。

 そして迎えた18世紀、産業革命の進行と並行して、英国ではロバート・ベイクウェルらによって家畜の品種改良が進められます。家畜改良の担い手の多くは農民ではなく、貴族でした。

 この時に、より多くの肉が取れる牛、そして霜降りが開発の目標となっていったのです。霜降りが開発目標になったのは、当然おいしいからです。